研究課題/領域番号 |
17J04985
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
藤崎 渉 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ペルム紀 / トリアス紀 / 遠洋深海層状チャート / 窒素同位体比 / モリブデン同位体比 / 日本 |
研究実績の概要 |
約2.5億年前に生じた古生代末の絶滅事件は、伝統的にペルム紀-トリアス紀境界(PTB)で起きた単一の事件だと考えられてきた。しかし、ペルム紀初期から続いた高い生物多様性の減少は、PTBより約1000万年前の中期ペルム紀ガダルーピアン世-後期ペルム紀ローピンジアン世境界(GLB)から始まっている。そのため、顕生代最大規模の古生代末の絶滅事件は、2つの独立した絶滅事件の複合であったと指摘されているのが現状である。本研究では、全球的な情報を保持していると考えられる遠洋深海域にて堆積した、現在では日本列島の付加体中に産する層状チャートを用い、様々な元素の濃度及び同位体比を測定することで、これら2つの大量絶滅事件時の古海洋環境を復元することを目的としている。 本年度は、GLB前後における古海洋復元に着手した。特に、日本で唯一微化石記録によりGLBが定められている、岐阜県郡上八幡地域に産する層状チャートを用い、酸化還元鋭敏元素濃度及び窒素同位体比測定を行った。その結果、無酸素化が発達していた浅海域とは異なり、遠洋深海域はGLB前後で酸化的であり、かつ比較的硝酸に富んだ環境下であったという、従来の考えとは異なる非常に興味深い結果が得られた。 さらに本年度は、PTB絶滅事件時の古海洋環境にも焦点をあて、岐阜県郡上八幡地域、和井谷地域に産する層状チャート及び黒色泥岩を用い、酸化還元鋭敏元素濃度及び窒素同位体比測定に取り組んだ。その結果、窒素同位体比はPTB前では正の値(0-3‰)を示すのに対し、絶滅層準にて負の値(-2‰)を示し、PTB後もその値を継続して示した。酸化還元鋭敏元素の結果と併せると、PTB絶滅時は浅海域だけではなく、遠洋深海域においても無酸素領域が発達しており、かつ生物活動に必要な硝酸が枯渇しているということが、本研究から示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GLB及びPTB両方の絶滅事件において、従来の定説を覆すような新知見が得られ、その一部を国際雑誌にて発表した。一方、モリブデン同位体比分析に関しては、現在予備実験を行っている段階であり、まだ天然の岩石試料に適応できていない。このように一部の実験は遅れているが、着実に研究成果を国際雑誌に発表することまで完遂させた点を加味し、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の地球化学的分析の結果から、GLBとPTBにおける遠洋深海域での酸化還元状態及び窒素循環が明確に異なることが明らかになった。最終年度は、この海洋環境の差異を引き起こしたメカニズムについて考察を行い、その成果を国内、海外学会及び査読付き国際誌に発表する予定である。また、モリブデン同位体比分析に関する予備実験を進め、GLB及びPTB前後の岩石試料に適応できるよう対応する。
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