生物大量絶滅の定義は”全地球規模で”、”大多数の生物種が”、”同時期に”絶滅することである。これまでの大量絶滅研究では、その9割以上が大陸棚縁辺などの浅海域に堆積した岩石を研究対象にしているが、浅海堆積物は例えば局地的な隆起に伴う海水準変動などといった地域的な情報を色濃く反映してしまうといった特徴を有する。そのため、地域的な情報を反映してしまう浅海堆積物を研究対象としている限り、大量絶滅研究の進展は望めない。本研究では、全球的な情報を保持していると考えられる遠洋深海域にて堆積した、現在では日本列島の付加体中に産する層状チャートを用い、様々な元素の濃度及び同位体比を測定することで、顕生代最大規模の絶滅が生じたペルム紀-トリアス紀境界(PTB; 約2.5億年前)前後の古海洋環境を復元することを目的としている。 最終年度は岐阜県郡上八幡地域、同県和井谷地域に産するPTB絶滅前後の層状チャート及び黒色泥岩を用い、酸化還元鋭敏元素濃度及び窒素同位体比測定を行った。その結果、窒素同位体比はPTB前では正の値(0-3‰)を示すのに対し、絶滅層準にて負の値(-2‰)を示し、PTB後もその値を継続して示した。酸化還元鋭敏元素の結果と合わせると、PTB絶滅時は浅海域だけではなく、遠洋深海域においても無酸素領域が発達しており、かつ生物活動に必要な硝酸が枯渇しているという新知見が得られた。現在はこれらの成果をまとめ、査読付き国際誌に投稿準備中である。
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