2018年度までの研究成果から、北太平洋における窒素安定同位体比の同位体地図(アイソスケープ)が完了した。北太平洋では、海域ごとに顕著なアイソスケープの異質性があり、特にベーリング海東部大陸棚において、ほかの海域と比べて極めて高い窒素同位体比を示す海域が分布していることが明らかになった。 また、北日本の複数河川からサケ8個体の脊椎骨サンプルを入手し、脊椎骨切片の精密分析から、成長段階ごとの窒素安定同位体比の時系列変化を個体ごとに復元した。サケの同位体比はすべての個体で一定の傾向を示しており、成長段階の最後に形成された骨切片において極めて高い同位体比を示すという特徴があった。 2019年度は、これらのデータを組み合わせて回遊経路を個体ごとに推定するモデルを構築し、サケの海での回遊を個体ごとに推定した。サケは、日本周辺海域から成長に伴って北東に移動し、最終的にベーリング海東部の大陸棚に到達することが示唆された。この海域に移動する時期は、サケが性成熟する時期と一致していると考えられる。したがって、ベーリング海東部の大陸棚はサケの海での回遊のゴールとなっていると考えられ、生物生産が盛んなこの海域で甲殻類などの餌を捕食することで、サケは性成熟していることが考えられる。 当該成果は、生態学分野におけるトップジャーナルの一つに論文として掲載され、プレスリリースを通して多数のメディアに取り上げられるなど、国内外で注目を集めた。
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