研究課題/領域番号 |
17J05028
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白石 智也 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 近赤外発光 / 化学修飾 / 有機合成 |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は直径1 nm程度の円筒構造を持つナノ材料である。CNTの興味深い特性の一つとして、バイオや通信分野において有用な近赤外発光を示すことが知られている。有機色素や量子ドットといった他の近赤外発光材料と比べ、CNTは光退色しないことや有毒元素を含まないことから、幅広い応用が期待できる。しかし、その発光波長はCNTの直径に依存しているため、有機分子のように構造を設計して目的に応じた光特性を得ることは難しい。 本研究では化学修飾によりCNT上に新たな修飾構造を形成することで、近赤外発光の波長制御及び長波長化を目指している。目指す修飾構造として、私は複数の修飾基が近接した多点の修飾構造を提案しており、この構造は様々な修飾分子を設計・合成することにより実現する。これまでの研究で二点の修飾構造の形成に成功しており、さらなる修飾分子設計の指針として(1)修飾基間の距離や(2)修飾個数に着目した。この分子はCNTと反応する複数の反応基とそれらを繋ぐリンカーにより構成される。 (1)修飾基間距離制御:修飾分子のリンカーの長さを変化させることで、修飾基間距離の制御が期待できる。これまで用いた修飾分子のリンカーはフレキシブルなメチレン基であり、剛直な構造のリンカーに変えることで修飾構造をより厳密に制御可能だと考えた。 (2)修飾基個数制御:従来までの直線型リンカーではなく、枝分かれしたリンカーを選択することで、反応基の数を多様に変化させることが可能であり、CNT上に近接する修飾基の数を変化させる。コントロール実験として、同様のリンカーで反応基が一個や二個の修飾分子も合成し、比較することで修飾基個数とCNT発光特性の相関を得る。これらの修飾分子の合成後はCNTへの化学修飾を行い、発光特性や修飾構造の評価を行う。さらにデバイスへの応用として光導波路を作製し、多点の修飾構造を有したCNTの有用性を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では二点の修飾構造の形成に成功しており、本年度ではその二点間の修飾距離を厳密に制御すること、また三点の修飾構造の形成を目指して、新たな修飾分子を四種設計し、合成及びその分子によるCNTへの化学修飾を行った。 まず剛直なリンカーを反応基の間に挿入することで、効率的に多点の修飾構造を形成することを目指した。このときの剛直なリンカーにはアントラセンもしくはアリールエチニルを選択し、それぞれを合成した。CNTに化学修飾した結果、二点の修飾構造は形成されたものの、その形成効率は低いことがわかった。この理由として、CNTのサイズとその曲率が影響しており、リンカーのサイズが大きくなり過ぎたことによって、二点の修飾構造の形成がかなり不利になっているためであることがわかった。 CNTとの反応基を従来系よりも増やすことで修飾個数の増加によるCNT発光波長の長波長化を目指した。まずトリフェニルアミンを中心骨格として、CNTとの反応基を三つ有する修飾分子を合成した。この分子をCNTに化学修飾すると、二点の修飾構造の形成までは確認できたが、三点の修飾構造の形成は観察されなかった。この理由として、分子サイズが大きくなり過ぎてしまい、三点の修飾構造の形成が困難であるためだと考えられる。これらの検討から、分子サイズを小さくすることが必要であることがわかった。そのため、今まで反応基として用いていたジアゾニウム基からヨード基に変更し、簡潔な分子構造にすることで、三点の修飾構造の形成を狙った。種々の検討の結果、三点の修飾構造形成による新しい発光特性を観察することに成功した。この発光を詳細に分析すると、三点の修飾構造に由来する発光が二点の修飾構造の発光よりも100nm程度長波長化した位置に示すことがわかり、修飾点の増加がCNTの長波長化に有用であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究の進歩状況では、CNT上に修飾点数を増やすことがCNT発光波長の長波長化に有効であることがわかり、本目的のコンセプトを示すことに成功した。しかし、反応基をヨード基に変更したことで、CNTとの反応性が低下し、三点の修飾構造の形成効率は極めて低いこともわかった。 今後は、反応性が高いジアゾニウム基を再度利用し、今までのような嵩高い分子設計ではなく、反応基同士をフレキシブルなリンカーで接続した新たな修飾分子を合成する。このときに、分子シミュレーションを用いて三点の修飾構造形成に最適なリンカーの長さを計算する。 また修飾条件に関しても、反応系の構築を見直し、より反応しやすい条件を検討することで、三点の修飾構造を形成効率の向上を目指す。最終的には得られた多点修飾構造を有するCNTを用いることで、最適な通信波長領域でありながらも高い光伝搬能を有するCNT光導波路への応用を検討する。
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