研究課題
H28年度までの研究成果として、ヒトIgGのFc領域に結合するペプチド及び葉酸を共有結合した分子 (以下Fc-ARMと呼称) により、葉酸受容体 (FR) 陽性がん細胞へ特異的にIgGを集積させることに成功した。H29年度の成果として、Fc-ARM依存的に集積した抗体が抗体依存性細胞傷害 (ADCC) を誘起するどころか、むしろ阻害することを明らかにした。具体的にはまず、FR及び上皮成長因子受容体 (EGFR)を過剰発現したIGROV-1細胞に対し、ナチュラルキラー (NK) 細胞様細胞株KHYG-1、セツキシマブ (anti-EGFR) を加えることでADCCによるIGROV-1細胞の傷害が起こることを確かめた。次にこの条件下においてFc-ARMを添加したところ、Fc-ARMの濃度依存的にADCCが阻害された。ADCCが起こる際には、標的細胞と免疫細胞の接着面に免疫シナプスと呼ばれる膜タンパク質集合体が形成される。共焦点顕微鏡による観察の結果、Fc-ARMを加えると免疫シナプス中へのセツキシマブの集積が阻害されると示唆された。ADCCの際には、がん細胞に結合した抗体をFcγIIIa受容体により認識することで、NK細胞中のErkタンパク質がリン酸化されることも知られる。ウェスタンブロッティング法を用いた結果、Fc-ARM依存的にがん細胞表面に集積した抗体は、Erkをリン酸化しないことも示唆された。その他に、NK細胞によるIFNγの分泌が、Fc-ARMにより抑制されることも分かった。以上より、Fc-ARMを介して集積した抗体はFcγIIIa受容体によるシグナル伝達を抑制し、結果としてNK細胞によるADCCを抑制することが明らかとなった。これらの結果をまとめ、英国王立化学会誌に発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予期していたのは、ADCCを誘起する分子の開発であったが、H29年度の研究成果として、我々の設計した分子がむしろADCCの阻害剤として働くことがわかった。現在、得られた知見を元にADCCを誘起可能な、新規中分子の開発に着手、合成に成功している。また、過剰な免疫反応を抑制する薬剤として、29年度に報告した分子を使用できる可能性があり、その方向性での研究も現在展開中である。現在のところ、研究計画当初と比べ目立った遅れは見られず、むしろ思いがけぬ方向にも研究を展開できることがわかったため、期待以上に研究が進展していると考える。
H29年度の結果から得た知見を元に、ADCCを誘起可能な分子を再設計、合成した。今後は、まずこの新規分子についてin vitro,及びin vivoにおける活性を評価していく。具体的には、NK細胞株を用いたADCC活性の評価や、担がんマウスを用いた腫瘍の成長よく性能の評価、新規分子の薬物動態などを中心に評価する。また、ADCCを抑制する分子に関しては、これを用いた治療の標的とする疾患について調査中である。調査が終了次第、得られた知識を元に分子設計を見直し、同様に合成、生物学的活性の評価に移る予定である。
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Medicinal Chemistry Communications
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10.1039/c8md00010g