研究課題/領域番号 |
17J05039
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
古川 善也 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2) (50826477)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 罪悪感 / 道徳的自己 / 向社会的行動 / モラルライセンシング / 潜在連合テスト |
研究実績の概要 |
本研究では,過去の行動による道徳的自己(moral self)の変動が,人の行動を規定していることを明らかにする。特に,罪悪感の危機シグナル機能に着目して検討を行う。具体的には,罪悪感は自己への脅威(道徳的自己の低下)のシグナルとして機能し,その危機をなくすための行動を動機づける。一方で,道徳的自己の十分な高まりは危機への猶予となり,それにより罪悪感が生じにくくなることで,罪悪感による行動の制限を解放するという新しいモデルの検討を行う。 本年度は計画をしていた研究の内,罪悪感が道徳的自己の低下シグナルとして機能するかを道徳的自己と罪悪感の対応関係から検討していく研究1を実施した。 道徳的自己の低下の測定に潜在連合テスト(IAT)の手続きを用い,IATの実行のためにmillisecond社のInquisitを使用した。実験課題は,IAT課題 (1回目),罪悪感操作,IAT課題 (2回目)の順で行なった。IAT課題における刺激への反応時間を基にIAT得点を算出し,その得点を道徳的自己の指標とした。罪悪感の喚起操作として,他の参加者(パートナー)と共同で行う課題の中で,参加者がパートナーに被害(不快なブザー音を聞かせる)を与えてしまう設定にすることで参加者の罪悪感を喚起させた。結果,罪悪感を喚起させた条件において,喚起させなかった統制条件よりも道徳的自己の得点が低くなることが示された。これは罪悪感の生起と道徳的自己の低下との対応関係を示すものであり,罪悪感が道徳的自己の低下へのシグナルとして機能していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,罪悪感が道徳的自己の低下シグナルとして機能するかを道徳的自己と罪悪感の対応関係から検討していく研究1と,道徳的自己の高揚が罪悪感や向社会的行動を生じなくさせるか検討する研究2を実施することを計画していた。しかしながら,学位論文の執筆に多くの時間をさく必要があったため,研究1のみを実施するに留まった。研究1に関連する内容について,本年度は日本感情心理学会第25回大会(同志社大学),The 19th Annual Meeting of the Society for Personality and Social Psychology(Atlanta)での学会発表を行った。また,別の研究と合わせて論文にまとめ,現在査読を受けている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
道徳的自己の変動と罪悪感の対応関係に基づくモデルを検証するために,道徳的自己の高揚による影響について検討する研究を実施することを計画している。具体的には,研究2において,道徳的自己を高める実験操作により道徳性の危機への猶予が生じることで,結果として不道徳行動に対する罪悪感やその後の道徳行動(e.g., 向社会的行動)が軽減するかを検討する。また研究3において,道徳的自己の高揚により罪悪感の生起がしにくくなることで,本来罪悪感が生じることで抑制されるような行動(e.g., 利己的行動)の実行が容易になるかを検討する。
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