研究課題/領域番号 |
17J05156
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗林 朋子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 木材 / セルロース / 熱処理 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)熱処理による木質細胞壁中のセルロースの結晶構造の変化について、樹種の違いが与える影響を検討した。さらに未処理の木材について、(2)細胞壁構造内に存在する水の量(含水率)が、セルロースの結晶構造およびセルロースミクロフィブリルの凝集構造や断面形状に与える影響を調べた。 (1)APG IIIの分類体系に基づき選定した19樹種(10科14目)の広葉樹について、湿潤状態の木片試料を作製し200℃の熱処理に供した。X線回折実験により、2 0 0の回折ピークに注目し、熱処理前後の面間隔と結晶サイズを比較した。大半の樹種において、ブナ材にみられたような熱処理による共結晶化の現象が生じることがわかった。本成果は国際学会(ICC2017、ACS2018)にて発表した。固体NMR実験より、熱処理によって、セルロースミクロフィブリルと、その間に均一に存在していたマトリックス(主にヘミセルロース、リグニンなど)に相分離が生じていると考えられる結果が得られ、共結晶化の機構を明らかにするための手がかりを得た。 (2)含水条件の異なる木材について、シンクロトロン放射光施設(ESRF)にてq=0.017-2.44 Å-1の領域について途切れなくX線散乱パターンを測定した。これにより、これまで注目されていなかった中角領域にピークがほぼ例外なく存在することが明らかになった。直径2.8 nmの円柱のランダム充填モデルを作成し、散乱プロファイルを計算したところ、実験から得られた散乱プロファイルとよく一致した。この結果に基づいた論文を現在執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の目標は、前項(1)、(2)に挙げたそれぞれの影響を明らかにすることである。項目(1)については、当初予定していた60樹種全てで測定を行うことが困難であったが、広葉樹の樹種間での比較をするための必要量のデータが得られたと考える。項目(2)では、実験値とシミュレーション結果との比較により、ミクロフィブリルの充填モデルの妥当性が確認され、小角散乱を利用した細胞壁構造の解析において有用な手法を提案することができた。以上より、進捗は順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
未処理の木材試料の結果に基づき得られたX線散乱の解析手法を熱処理材に応用し解析を進め、熱処理によるミクロフィブリルの構造変化を明らかにする。未処理材について、含水率の影響を精査する。具体的には、含水率の増減に伴うミクロフィブリルの構造変化のその場観察を行い、可逆性も検証する計画である。またこれまで広葉樹材に注目してきたが、針葉樹材の場合についても調べる。
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