昨年度は細胞壁構造内に存在する水の量(含水率)が、セルロースの結晶構造およびセルロースミクロフィブリルの細胞壁中の配列様式や結晶構造に与える影響を調べた。今年度は、細胞壁内でのセルロースの微細構造の変化をより定量的に評価するために、より信頼性の高い解析手法を確立するための検討を行った。具体的には、放射光X線を用いた散乱実験によって得られた小角から広角までのX線強度を再現するミクロフィブリルの配列モデルを構築した。このモデルでは、ミクロフィブリルを非連続な密度勾配をもつ複層で無限長の円柱として扱った。この円柱が横断面内に重なり合わずにランダムに分布するモデルが、実験散乱強度をよく再現することを明らかにした。この解析手法を用いて、広葉樹(ブナ)、針葉樹(スギ)、竹(モウソウチク)から得られたX線散乱強度プロファイルを再現できることが分かった。これらの樹種では、ミクロフィブリルとマトリックス間の界面構造、細胞壁内におけるミクロフィブリルの分布密度に差異があることが示された。さらに、熱処理によってもミクロフィブリルの形状や分布の状態が顕著に変化することが明らかになったが、細胞壁中に存在する水がその変化と深く関わっていることがわかった。
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