研究課題/領域番号 |
17J05170
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
王 博超 神戸大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | HHV-6 / テグメントタンパク質 |
研究実績の概要 |
ヒトヘルペスウイルス6 (HHV-6) のテグメントタンパク質であるU14及びU11はヘルペスウイルス特有のテグメントを構成するタンパク質であり、それぞれウイルス感染において必須であることが我々のグループによって証明されている。我々はX線結晶構造解析法を用いてU14の立体構造を決定しており、U14の構造上でU11と相互作用する領域を同定した。この領域では、U11と相互作用するアミノ酸残基として、以前我々のグループがU14の機能に重要であることを見出した三つ連続のアミノ酸に加えて、平成29年度には新たにU11と相互作用する領域を見出した。また、その変異を持つウイルスの再構築を試みた結果、変異型では野生型と比べ増殖能が減弱していたことが明らかとなった。 平成30年度ではU14に変異を持つ変異型HHV-6 ウイルスの性状解析を進めた。変異ウイルスを作製し、その感染細胞を調製する事ができた。また、免疫電子顕微鏡解析に向けて、この感染細胞について切片調製法等の条件検討を進めた。 また、U11の立体構造解析を行うために、U11の発現プラスミドを作製し、大腸菌を用いてタンパク質の安定発現系の構築を行った。精製タンパク質を得るために多くの発現条件を検討したが、HHV-6A U11及びHHV-6B U11の全長を発現させた場合にはいずれの場合にも複数の分解産物が生じる事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続きU14上に新たに見出されたアミノ酸残基に変異を持つウイルスの解析を進めた。変異ウイルスの増殖能に大きな障害が生じたことから、 U14 とU11 との相互作用はウイルスのテグメント構造の形成に重要であると考えられる。テグメント形成障害の一つ表現型として、感染細胞内に大量な未成熟なウイルス粒子が観察される可能性があるため、今年度の研究では免疫電子顕微鏡での解析に取り組み、切片の調製法などの各種の実験条件を検討した。 また、U11に関して、立体構造解析に向けてタンパク質の発現系の構築を進めた。大腸菌を用いた系において、培養温度、発現誘導物質の添加量や添加のタイミング、誘導時間などを検討した。付加したタグタンパク質による精製を行い、精製したタンパク質をSDS-PAGEによって分離後、CBB染色法とウェスタンブロッティング法で目的タンパク質を解析した結果、いずれの条件でも分解産物が生じており、安定かつ高純度なタンパク質を精製する事ができなかった。しかし、分解のパターンからU11上で切断を受けやすい部位を推定する事が可能となったため、この情報を基に発現プラスミドの設計を見直し、改善を行う事ができると考えられる。 以上から、本年度は計画に沿って実験を行い、おおむね期待通りの結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の研究で新たに判明したU14上のU11との相互作用に関わるアミノ酸残基に変異を持つウイルスに関して、30年度に行った条件検討の結果を踏まえ、31年度には免疫電子顕微鏡解析を進め、感染細胞内の各種タンパク質の局在および状態や、形成中あるいは産生された変異体ウイルス粒子の性状をさらに解析する予定である。 また30年度にはU11タンパク質の安定発現系の構築を試みたが、U11は全長100kDa以上の大きいなタンパク質であるため、全長を安定に大腸菌に発現させることが困難であった。実際に多くの条件を検討したが、発現時あるいは精製途中で分解されることが問題となり、安定かつ高純度なタンパク質が取れる条件を見出す事ができなかった。HHV-6 U11のN末端領域は、HHV-6の近縁ウイルスであるヒトサイトメガロウイルス (HCMV) のテグメントタンパク質pp150と相同性を有する事が明らかとなったため、近年報告されたHCMV pp150の立体構造を参照したところ、HHV-6 U11のN末端領域はカプシドに結合する機能ドメインを形成している可能性が高い事が示唆された。今後は全長U11の大腸菌内での分解のパターンを参考とし、またU11 N末端ドメイン (U11-NTD) をベースに部分配列の設計を行う事によって安定発現系の構築に取り組み、U11の機能および構造に関する解析を推進する予定である。
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