研究課題/領域番号 |
17J05232
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中岡 宏徳 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / ネマティック秩序 / 強相関電子系 / バーテックス補正 |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体においてネマティック秩序と超伝導は多大な注目を集めている。多くの鉄系超伝導体は磁気転移とともにネマティック転移を示し、超伝導相はその秩序相に隣接して現れるため、その関係が精力的に研究されている。これまでの研究により鉄系超伝導体におけるネマティック転移は高次の電子相関相互作用であるバーテックス補正に起因する軌道秩序機構で説明できることがわかった。そこで本研究ではBaFe2(As,P)2注目し、バーテックス補正を考慮したMigdal-Eliashberg近似を超えた超伝導ギャップ方程式を解き、ARPESによる観測結果と比較することで超伝導発現機構を解明した。 BaFe2(As,P)2はZ点近傍のdz2軌道で構成されたホール面(dz2ホール面)上のギャップ構造が注目されている。RPAによるスピン揺らぎ機構の先行研究ではdz2ホール面上に水平ノードを予想している。一方、現象論的な軌道揺らぎ機構の先行研究は水平ノードは現れないと予想している。このように水平ノードの有無は超伝導発現機構に直接的に関係しているが実験的には双方の報告があり、決着には至っていない。 第一原理計算による有効2次元5軌道強束縛模型を作成し、バーテックス補正を考慮した軌道・スピン感受率の計算を行ったところ、実験的相図と整合する強的な軌道揺らぎと反強的なスピン揺らぎが発達した。次に得られた揺らぎを用いて、バーテックス補正を考慮した超伝導ギャップ方程式を解いたところ水平ノードを伴わないノーダルs+-波を得た。水平ノードが消失するのはバーテックス補正により軌道揺らぎが発達することで、軌道間引力相互作用が誘起されるためである。 本研究では、ネマティック秩序と超伝導発現機構について統一的な微視的理論で解析し、軌道揺らぎの発達によりdz2ホール面上に水平ノードが現れないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は軌道・スピン揺らぎと超伝導発現機構の関係について明らかにすることである。そのためには鉄系超伝導体の示す、ネマティック秩序と超伝導発現機構、さらにはその物質依存性について、統一的な理論で理解することが重要である。これまでに解析を行ったBaFe2(As,P)2とLiFeAsは同じ鉄系超伝導体のグループに属しているがその物性は大きく異なっている。BaFe2(As,P)2は軌道秩序、磁気秩序を示すのに対して、LiFeAsは軌道秩序も磁気秩序も示さない物質である。本研究ではこの2つの鉄系超伝導体を同じ理論手法で解析し、それぞれの異なった軌道・スピン揺らぎ、超伝導ギャップ構造を統一的に説明することに成功した。鉄系超伝導体の物質依存性はフェルミ面の形状、軌道成分の違いに起因しており、同じ理論手法で解析することで物質依存性の違いを生み出す要素も明らかにすることができた。そのため本研究の目指す鉄系超伝導体の統一的な理解に向かって順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はBa122系のドープ依存について注目したいと考えている。これまでに研究したBaFe2(As,P)2の母物質であるBaFe2As2は電子ドープ、ホールドープによっても超伝導が発現する。ホールドープでは超伝導転移温度がTc=38Kまで達し、これはBaFe2As2系では最高の転移温度である。超伝導はTcは低くなるものの、BaをKに置換しきったKFe2As2においても発現している。軌道揺らぎとスピン揺らぎの強さ、超伝導ギャップのドープ依存性も観測されおり、超伝導発現機構がドープ量によって変化していることが予想される。これはホールドープによってX,Y点のフェルミ面が電子面からプロペラ上のホール面に変化することに起因していると考えられる。またごく最近に同じ過剰ホールドープ系であるCsFe2As2,RbFe2As2においてBaFe2As2で観測されるものとは異なった対称性を持ったネマティック揺らぎが観測された。これらの超伝導ギャップ構造への影響についても調べたいと考えている。
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