前年度までに、大気中下での高強度テラヘルツSTMを完成させ、自在に波形の制御されたTHz近接場を利用して数十フェムト秒の時間分解能かつ1 ナノメートルの空間分解能で電子や物質を制御する手法を見出した。しかしながら、大気中下では試料表面に酸化膜が形成されてしまうため、金やグラファイトといった限られた試料でしか実験ができなかった。そこで、新たに超高真空STMを導入することで、あらゆる導電性試料での実験を可能にした。加えて、安定性とS/N比が格段に向上したため、原子分解能で試料表面を観察することが可能になった。新しい系での最初の実験として、相変化材料であるGeSbTeのナノスケール相変化誘起に取り組んだ。この物質は、DVDなどの可逆記録メディアに利用されており、探針で増強された近接場を使って超高速で相転移を引き起こすことができれば、これまでの限界を上回る超高速かつ超微細な情報記録が可能になると期待される。実際に、第一段階として近赤外のフェムト秒パルスを使って結晶相からアモルファス相への超高速相転移をナノスケールで誘起することに成功した。探針直下において相変化前後で試料形状が変化しただけでなく、バンドギャップが変化していることを走査トンネル分光法により確認した。この逆過程であるアモルファス相から結晶相への相転移は高強度テラヘルツ波を用いて引き起こせると考えられるが、実験条件の追い込みが必要な段階である。 また、テラヘルツSTMの時間分解能を向上させ、励起状態のダイナミクスを動画として直接捉えるために、新たな光源開発を行った。この光源は、パルス幅が30フェムト秒より短いサブサイクルパルスを4 MHzの繰り返し周波数で発生させることができるため、テラヘルツSTMの可能性を格段に高めるものになると強く期待される。
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