本年度は,前年度得られた成果に対して多面的な検証を行ったうえで,本研究が提案する理論を広域シミュレーションへと実装する段階まで進捗させた. 前年度行った樹木モデルを用いた三次元数値実験に対して,比較実験として同配置・同寸法の円柱群モデルを用いた三次元数値実験を行った.一連の数値実験には,所属組織の有する計算機に加えて,共同利用制度によって利用権を得た外部の計算資源も活用された. 多くの従来研究が防潮林を模擬した装置として採用していた円柱群モデルに対して,本研究が提案するマルチスケール理論に基づく抵抗評価を行ったところ,樹木群モデルと比較して水深や流体力の低減効果が劣るという評価結果が得られた. これにより,本研究が数値実験において採用している樹冠を有する樹木モデルが,既往の円柱群モデルと比較して,実際の抵抗効果を評価する上でより適切である可能性を定量的に示したと同時に,提案手法が枝や葉などの樹冠形状に起因する抵抗効果を合理的に評価できていることを確認できた. このような検証を行ったうえで本研究が提案する一連の理論・評価手法を,実災害時の津波遡上・浸水状況の予測に用いられる二次元浅水長波解析へと適用することを行った.得られたシミュレーションの結果から,樹幹部浸水,樹冠部浸水,全浸水という三つの浸水形態それぞれにおいて水理実験で確認されるような水面形状を得ることが確認された.このような結果から,本研究が提案する理論,およびそれに基づく評価手法などは,防潮林の減災効果を考慮した浸水予測シミュレーションの更なる高度化に貢献しうることを示した.また,非定常状態,定常状態のそれぞれの状態において提案理論が合理的な予測を提案できるかどうか調査することで,時空間マルチスケール理論へ発展させることを目指した.
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