研究実績の概要 |
本研究の対象物質であるアンチペロブスカイトA3EO(A=Ca,Sr,Ba;E=Sn,Pb)は化学的柔軟性を持った3次元ディラック半金属であることが理論的に予想されており、3次元ディラック電子の制御に有望な物質である。特に我々が注目しているSr3PbOは電気四重極相互作用の影響を受けない核スピン1/2の元素である207Pbを持つため、核磁気共鳴によってディラック電子の磁性を調べることに適した物質でもある。ディラック電子はバンド間効果を通じて巨大な軌道反磁性を示すことが古くから理論的に知られており、ビスマスのバルク磁化率などから観測されている。しかしながら、バルク磁化率は軌道項やスピン項などの様々な寄与を持つため、軌道磁化率を微視的に分離できているわけではなく実験的な詳細は不明のままであった。磁化率を微視的に分離するには核磁気共鳴が有効な測定手段であるが、核スピン9/2のビスマスでは電気四重極相互作用が大きく、磁性を議論することが難しいという問題もあった。 本研究ではSr3PbOにおける核磁気共鳴測定で得られたナイトシフトのスピン成分とスピン格子緩和率の間にコリンハの関係式と呼ばれる関係があることを利用して両者を比較することで、ナイトシフトからスピン成分と軌道成分が分離できることを見出た。特に、様々なキャリア密度をもった試料の測定から、ディラック電子が現れると予想される領域でのみ巨大な軌道反磁性が生じることを明らかにすることができた。以上の結果はディラック電子の巨大な軌道反磁性の存在を、軌道項を微視的に分離した上で明らかにした初めての結果である。
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