今年度は、ニューヨーク公共図書館に所蔵されるポスト・モダンダンスの振付家の舞踊譜及び作品映像の資料を調査し、これらの振付家の作品群から見られる偶然性の振付方法について研究を行った。特に、アンナ・ハルプリンやイヴォンヌ・レイナー、スティーヴ・パクストン にみられる一般市民やアマチュアのダンサーが参加するような作品において、振付家はダンス・スコアを用い、「自発的な交渉」や「集団のダイナミックな表現」として、即興の要素を捉えている。その結果、「即興」及び「創作プロセス」はアマチュアの介入によって「遊戯性」を助長させていることを分析した。また、ポスト・モダンダンスの同時期にあたる舞踏における創作過程については、舞踏家の尾竹永子への聞き取り調査を行った。これまで書き込まれる舞踏の身体に先立った記述や図といった羅列は、身体運動を呼び起こす素材となり、イメージの飛躍を発生させていることが妥当な見解であった。しかしながら、舞踏譜において、創作プロセスは言葉のもたらす側面だけでなく、物質に対する視空間性を起点とした偶発的な側面に依拠していることが明白となった。 偶然性による振付概念の変化については、ポスト・モダンダンスの振付家によって受容される図形楽譜に着目することで、演奏家への依存性が、「イミテーション」という概念によって支えられているとことを明らかにした。したがって、振付における舞踊記譜法、すなわち直接的にそのコードを転写し、身体行為を行う振付の自律性から解釈者への依存という振付の他律性へと劇的に変化し、振付家の意図しない偶発的かつ不確定に変動する振付へと移行していることが捉えられた。これらの考察は、偶然性及び反偶然性が何であったのかという当該研究分野の課題に一つの回答を示すことができたという点で、本研究の意義があると言えるだろう。
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