研究課題/領域番号 |
17J05245
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
越智 陽太郎 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / コヒーシン / スプライシング |
研究実績の概要 |
1. RNAスプライシング遺伝子ノックアウトマウスの解析:スプライシング遺伝子Zrsr2の条件的ノックアウトマウスを作成した。同マウスでは、末梢血に大きな異常所見を認めなかった。致死量放射線照射を行ったレシピエントマウスへの骨髄移植を行ったところ、Zrsr2遺伝子欠失マウスの骨髄細胞を移植されたマウスでは、白血球数低下を認め、同遺伝子欠失により造血制御に変化が生じる可能性が明らかになった。一方、造血器腫瘍の発症は認められず、同遺伝子以外の付加的異常が造血器腫瘍発症に必要と考えられた。骨髄幹前駆細胞を用いたRNA-seq解析では、同遺伝子欠失が遺伝子発現やスプライシングに及ぼす影響は比較的軽微であることが確認された。
2. コヒーシン遺伝子ノックアウトマウスの解析:骨髄異形成症候群には複数の遺伝子異常が共存することが一般的であり、スプライシング遺伝子以外の遺伝子異常との組み合わせにより造血器腫瘍を発症する可能性が考えられた。そこで、コヒーシン遺伝子に着目し、コヒーシン遺伝子Stag2の条件的ノックアウトマウスを新たに作成した。同マウスでは、白血球数の減少や、骨髄中の造血幹細胞の増加、分化異常、更には造血幹細胞の自己複製能の増加といった機能異常を認め、骨髄異形成症候群様の病態が再現された。RNA-seqでは、造血幹細胞の機能に関連のある複数の遺伝子群の発現変動が観察された。またATAC-seqを実施し、エピジェネティックな変化を解析したところ、コヒーシン欠失による転写因子群の異常な活性が明らかになった。更にChIP-seqを行い、造血細胞におけるコヒーシン関連分子のゲノム上の局在およびStag2欠失による動態を明らかにした。同解析より、Stag2欠失により、エンハンサーを介した遺伝子発現制御に異常が生じる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち、スプライシング遺伝子の一つであるZrsr2の条件的ノックアウトマウスを作成した。Zrsr2遺伝子のノックアウトを確認後、表現型の解析を行った。また、同遺伝子欠失がもたらすスプライシング異常について、RNAシーケンスを行い詳細な解析を行った。更に、スプライシング遺伝子異常と共存するエピジェネティック遺伝子変異の一つであるコヒーシン遺伝子Stag2の条件的ノックアウトマウスを作成し、表現型の詳細な評価を行い、同遺伝子が造血幹細胞の分化制御を行っていることを明らかにした。同遺伝子が造血機能を制御する分子機構について、マウス骨髄幹前駆細胞を用いた各種シーケンスを実施することで、エピジェネティックな変化を網羅的に解析し、造血幹細胞の維持、分化に重要な多数の遺伝子群の発現、活性の変動を明らかにした。上記の解析を行いながら、複数遺伝子異常を有するマウスモデルの作成にも取り組んでいる。 本年度は、上記に関連した研究成果について、日本血液学会、日本癌学会、欧州血液学会など、国内外で学会発表を行った。特に、欧州血液学会では口演発表に採択され、研究成果の証左と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析結果から、コヒーシンStag2がエピジェネティックな制御を通じて造血幹細胞の制御を行っていることが明らかになっており、更に同分子の機能について、各種シーケンスを含めた技術を応用し、詳細な解析を行う予定である。 更に、特に骨髄系造血器腫瘍で共存の頻度が高い遺伝子異常について、マウスモデルを用いて分子機序を解明するため、各マウス系統間の交配を行い、複数異常を有するマウスを解析予定である。複数遺伝子異常、特にスプライシング関連遺伝子やエピジェネティック制御遺伝子、転写因子をコードする遺伝子の異常が同一クローンに生じた際、造血系に生じる影響について、詳細に検討を行う。
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