研究課題/領域番号 |
17J05270
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小谷野 由紀 千葉大学, 大学院理学研究院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 自己駆動運動 / アクティブマター / 樟脳 |
研究実績の概要 |
自己駆動系の一つである水面上における樟脳粒の運動について、解析を行ってきた。樟脳粒が円形領域内に閉じ込められた場合、対称性の観点から円の中心位置に静止した状態が自明な解として考えられる。そこで、樟脳粒が静止する状態が不安定化したときに現れる運動について、力学系の観点から理論解析を行った。この系では、境界との相互作用によって樟脳粒を円形領域の中心に向かう線形な復元力がはたらく。中心位置に静止している樟脳粒に摂動を加えると、粒子の運動方向に速度に比例した推進力が生じる。この速度に比例した加速が、通常の速度に比例した抵抗より大きくなるとき、静止状態が線形不安定となることが線形不安定性の議論から明らかとなった。さらに、円形領域の半径が十分狭いときには線形な復元力が支配的であることを利用し、弱非線形解析によって回転運動と振動運動の存在条件・安定性条件を調べた。その結果、円形領域の半径が樟脳分子濃度場の拡散長程度以下のとき、ホップ分岐を通じて、静止状態から回転運動が生じることが明らかとなった。また、弱非線形解析の範囲内では、安定な微小振幅の振動運動は存在しないこともわかった。 今後は、これまで用いてきた数理モデルに陽に含まれていないバルク相での流体構造について、解析を進める。特に、マランゴニ対流によって生じる水面上の樟脳分子の移流が樟脳分子濃度場の定常プロファイルへ与える影響について議論する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで樟脳粒の運動に関して、有限領域に閉じ込めたときの、運動と系の対称性の関係を明らかにしてきた。当初の研究計画では流体の効果についても議論する予定であったが、それまでの研究に時間が掛かり、まだ扱えていないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
無限に広い水面上に樟脳粒を浮かべると、自発的に動きだす。境界がないときは、駆動力と抵抗力の釣り合う速度で等速直線運動することが知られている。抵抗係数が大きい場合には、等速直線運動を表す解の代わりに、静止する解が安定になることも知られている。これは抵抗係数を分岐パラメータとしたピッチフォーク分岐となっている。これまでの先行研究では、樟脳粒の下の水相の対流構造の影響がモデルに含まれていないことが多い。これは、誘起されるマランゴニ対流によって樟脳分子の拡散が増長される影響を、濃度場の方程式のパラメータである拡散係数を大きくすることで現象論的に再現していたからだと考えらえる。しかし、拡散係数のような定数に対流の影響をすべて押し込めて良いかどうか検討されるべきである。これまで、静止している樟脳粒が誘起するマランゴニ対流に増長される、樟脳分子の濃度プロファイルの拡散長は調べられているが、樟脳粒が運動している場合についての先行研究はない。 そこで、樟脳粒の速度に依存した対流構造を調べる。具体的には、数理モデルとして、流体方程式と水面における樟脳濃度についての反応拡散方程式、樟脳粒の運動方程式からなる数理モデルを用いて、対流構造まで含めた静止解および等 運動解の構築を行う。樟脳粒が静止している場合と異なり、運動方向の前後で非対称な対流構造が形成されることが予想される。さらに、樟脳粒の等速直線運動に摂動を与えたとき安定性、すなわち、対流が樟脳粒の運動の分岐構造に与える影響を調べる。線形安定性解析によって、分岐構造を明らかにする。また、数値計算も行い、解析結果と比較する。
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