研究課題/領域番号 |
17J05328
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
下地 美日 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 格配列 / 古典日本語研究 / 方言研究 / 格助詞 / 分裂自動詞性 |
研究実績の概要 |
本研究は、方言研究と古典語研究を融合することで、日本語の格配列のシステムを解明するものである。 古典語研究については、上代語の格と情報構造(いわゆる係り結び)をめぐる問題を整理し、第13回琉球諸語研究会で口頭発表した(「上代の情報構造について―記述の中間報告―」)。琉球語は、古い日本語に近い情報構造を備える側面がある。古代日本語に関する発表を、琉球語の研究会で行なったことで、琉球語と古代日本語の接点について意見交換できた。また、上代語と現代語の間にある、中世近世日本語についても研究を進めた。格助詞と関連が深い準体について論文を執筆した(「上方語と江戸語の準体の変化」笠間書院、掲載確定・印刷中)。 方言研究では、甑島(鹿児島)、椎葉村(宮崎)、博多(福岡)、熊本市、豊中市(大阪府)の方言調査を行なった。成果として、まず口頭発表については、成城学園創立100周年・大学院文学研究科創設50周年記念シンポジウム『私たちの知らない<日本語>―琉球・九州・本州の方言と格標示―』にて講演を行なった(「九州の方言と格標示―熊本方言の分裂自動詞性を中心に―」)。その他2件の口頭発表を年度内に行なっており、更に、平成30年度についても既に、学会口頭発表(第156回日本言語学会)1件と、国際シンポジウム(Approaches to Endangered Languages in Japan and Northeast Asia: Description, Documentation and Revitalization)のポスター発表1件が確定している。論文としては、竹内史郎・下地理則編『日本語のケースマーキング』くろしお出版に執筆し、2018年5月現在印刷中である(「熊本市方言の格配列と自動詞分裂(仮題)」)。当該年度調査の成果を含む論文は、他2本を含め計4本ある(掲載確定・印刷中を含む)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、おおむね順調である。 「研究実績の概要」にも述べたように、申請者は、これまでの研究において、古典語研究と方言研究を両立し、それらを融合することで、日本語の格配列のシステムを明らかにしている。特に、本研究で明らかにしつつある九州方言の格配列は、世界言語に報告のなかった、いわゆる新種の型である。日本語の格配列は全て同じという従来の固定概念を変えるばかりでなく、一般言語学にも議論を提示しうるものである。また、日本(日琉諸語)の格配列の歴史と存立基盤を考察にあたって、重要なデータと考えられる。 具体的な進捗状況を述べる。まず古典語については、計画通り上代語の研究を行ない、「研究実績の概要にも述べたように、成果を口頭発表した(「上代の情報構造について―記述の中間報告―」第13回琉球諸語研究会)。更に、次年度以降に着手する予定であった中世・近世の論文も、執筆している(「上方語と江戸語の準体の変化」笠間書院、掲載確定・印刷中)。計画以上の進展である。 続いて、方言研究については、計画通り、九州を中心とする調査を行なった。成果の発信も、順調である。「研究実績の概要」にも述べたように、当該年度の方言調査の成果を含む論文は3本(2018年5月現在印刷中を含む)、当該年度内の口頭発表3件、2018年5月現在確定している口頭発表2件である。その確定している2件については、いずれも平成30年度中の発表予定であり、学会口頭発表(第156回日本言語学会)1件と、国際シンポジウム(Approaches to Endangered Languages in Japan and Northeast Asia: Description, Documentation and Revitalization)ポスター発表1件である。計画通りの、順調な進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず、平成29年度に行った調査(古典:上代語、方言:九州)の継続調査を行なう。九州方言について具体的には、熊本市方言、博多方言(福岡県)、甑島方言(鹿児島県)、椎葉村方言(宮崎県)の調査を中心に継続する。また、その周辺エリアも視野にいれる。内容としては、平成29年度においては、形式の洗い出しや、大まかな枠組みの調査、一部の文法環境の精査(待遇、主題化)を中心に行ったため、今後は、より広い範囲の文法条件を考慮した分析を進めてゆく。格には、待遇や主題だけでなく、アスペクトや焦点など、あらゆる要因が関与すると言われている。網羅的な観察が課題となる。また、網羅的な観察にあたっては、当該方言の全体的な文法体系の把握も不可欠である。よって、文法記述や談話収集にもつとめてゆく。これは一方で、方言の記録・保存の観点からも重要な作業である。 そして平成30年度は、新たな調査領域も加えてゆく。 古典語研究においては、上代の次の、中古中世まで視野にいれて調査を進める。なお、進捗状況においても述べたように、中世を含めそれ以降の時代についても、既に平成29年度の段階で着手しはじめている。 方言研究については、新たに琉球語・本土日本語研究にも着手してゆく。格配列研究が殆ど行われていない所もあるので、格配列の洗い出し作業から行なってゆきたい。 これらの作業により、日琉諸語の格配列の成立基盤やメカニズムの解明を実現する。
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