研究課題/領域番号 |
17J05331
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神永 健一 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 希土類単酸化物 / エピタキシャル薄膜 / 超伝導 / パルスレーザ堆積法 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的であるスピン流熱電変換素子の作製には、高いキュリー温度をもつ強磁性半導体と強いスピン軌道相互作用をもつ金属的導体のヘテロ接合の形成が必要である。そこで、まず高いキュリー温度をもつ新奇な希土類単酸化物(REO)の発見とエピタキシャル合成を目指して、様々なREOに対して物性探索を行なった。その過程で、ランタン単酸化物(LaO)のエピタキシャル薄膜が最大5.2 Kで超伝導性を発現することを偶然発見した。特に今回観測したLaOの超伝導転移温度(Tc)は、Tcが高々1 K程度である既報の他の岩塩型ランタン16族化合物(LaS, LaSe, LaTe)と比較すると、きわめて高い。そこで当初の目的とは逸れるが、LaOエピタキシャル薄膜に関して詳細な超伝導特性を調べることにした。 まずはYAlO3基板上に作製したLaO薄膜に関して、超伝導特性を調べた。YAlO3基板上に作製した場合、LaOは基板から圧縮歪みを受け、酸素欠損量に応じて格子体積は増大する。また、LaOのTcは電子キャリア濃度に応じてドーム型の依存性を示す。ゆえに比較的高いTcの起源はフェルミ面付近の酸素欠損準位に由来した大きな状態密度であると考えられる。 次にYAlO3基板・LaSrAlO4基板・LaAlO3基板上に同時に作製することで酸素欠損量を揃えたLaO薄膜に関して、格子歪みが超伝導特性に及ぼす影響について調べた。LaSrAlO4基板・LaAlO3基板上の場合、LaOは基板から引張歪みを受ける。LaOの格子体積は圧縮歪みから引張歪みにかけて単調に増大し、それに伴ってTcも線形に増大した。特に、最も大きな引張歪みとなるLaAlO3基板上で最高の5.2 Kの超伝導を発現した。このように対称性の高い岩塩構造の超伝導体が格子歪みの効果によりTcが上昇した例はなく、その起源についてさらなる検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は希土類単酸化物を用いたスピン熱電素子の作製を当初の目的としてきたが、その研究過程で、LaOが超伝導性を発現することを偶然発見した。希土類酸化物はワイドギャップ絶縁体であるという従来の教科書的な固定概念に反し、LaOは金属的で最大5.2Kで超伝導を発現する。このLaOの超伝導に関しては第78回(2017年秋季)応用物理学会秋季学術講演会にて注目講演に選出されると共に講演奨励賞を授与されるなど、応用物理学会できわめて高い評価を受けることができた。 今後は申請者が第一発見者であるLaOの超伝導性をさらに探究するのと並行しつつ、引き続きスピン素子の作製に向けて研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、LaO薄膜の超伝導性の起源には、未解明な点が多い。そこで今後の計画として、LaOを用いたS-I-Nトンネル接合を形成することで超伝導ギャップを観測し、トンネル特性からLaOが従来型のBCS超伝導体であるかを議論する。また、共同研究として、走査型トンネル分光による超伝導ギャップの直接観測を試みる予定である。 一方、LaOの超伝導研究と並行して、引き続きスピン流熱電変換素子の材料となりうる新奇な希土類単酸化物の探索を行なう。さらに、既に見つかっている新奇希土類単酸化物(REO)のYOやSmOと、強磁性半導体であるEuOのヘテロ接合を形成することで、単層にはないヘテロ構造由来の特異な物性が発現するかを確認する。特に、SmO/EuOヘテロ薄膜はSmOのトポロジカル物性に由来して、界面において量子異常ホール効果を発現することが理論的に予測されている。こうした理論予測の実際的な検証も並行して進めることで、REOのヘテロ構造および超格子の新奇な物性開拓を主導的に行なっていく予定である。
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