研究課題/領域番号 |
17J05372
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石黒 翔 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ワーキングメモリ / 人物記憶 / 文脈依存記憶 |
研究実績の概要 |
社会的な情報の保持がどのような認知メカニズムによって実現されるかを検討するため、人物情報に加えて人物情報以外の情報にも対象を広げ実験を行った。 第一に、申請書中に記述した実験のフォローアップを行った。申請書中の実験結果は、人物情報については、課題とは直接関係がない文脈情報がワーキングメモリ成績に影響を与えることを示していたが、29年度は人物情報ではなく、物の名前を文脈情報として与えることの影響を検討した。実験結果は、人物情報を文脈情報として与えた際には見られた条件差が、物の名前を文脈情報として与えた際には見られないことを示し、人物情報と非人物情報がワーキングメモリに与える影響が異なることを示唆している。これらの研究は、国際雑誌への投稿を行うために改稿中である。 第二に、一般的なコンプレックススパン課題で用いられる認知課題(「図形の左右対称性の判断」および「計算式の正しさの正誤判断」)が文脈情報として働く可能性について検討した。予備実験及び2回の本実験を実施したが、想定していた文脈の効果は見られなかった。この原因として、文脈情報以外にも時間情報を参加者が用いることができ、相対的に文脈情報の有用性が低下していた可能性が考えられた。 第三に、人物情報として重要であると考えられる人物の顔刺激について記憶実験を行った。記憶実験に先立ち、顔刺激間の類似度を評定する実験を行い、類似度の評定値に基づき実験を実施した。刺激への評定を行う実験と記憶実験を合わせて行うことにより、記憶実験とは独立して取得した刺激の特徴が記憶成績に与える影響を検討することが可能であった。実験の結果は、顔刺激において刺激間の類似度が記憶成績に影響を与えることを示しており、言語刺激では見られる刺激間の類似度が記憶成績に影響を与える現象を、顔刺激の領域においても確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書中に記載した一連の研究をまとめ、国際雑誌へ投稿をした。追加実験を求められたため、29年度に追加実験を行い、現在論文の改稿中である。これらの研究は、従来主に学校での成績などとの関連が検討されてきたワーキングメモリ研究を社会的な場面にまで広げるという意義がある研究であり、ワーキングメモリ研究へ新しい観点を呈示することができると考えられる。一方で、一般的なコンプレックススパン課題で用いられる認知課題が文脈情報として働く可能性について検討した研究は期待通りの実験結果が得られなかった。この点は、30年度の課題であり、30年度は実験計画の改良を目指す。 また、本年度は海外の研究者からコンピュータシミュレーションのトレーニングを受けており、30年度も継続してコンピュータシミュレーションの学習を行う。認知心理学研究の方法論としてコンピュータシミュレーションは有効な手段であり、今後の自身の研究を発展させるための技能を習得しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、29年度に行った実験を発展させる形で研究を進める。 第一に、29年度に示された、人物情報と非人物情報のワーキングメモリ課題において文脈情報としての用いられ方の違いについて検討する。この違いが質的な違いであるのか(e.g., 人物情報に対する特異的な認知プロセスが存在する)、量的な違いであるのか(e.g., 人物情報と非人物情報は共通のプロセスによって処理されるが、相対的に人物情報は文脈情報として利用されやすい)について検討する予定である。具体的には、先の実験では文脈情報として用いられなかった非人物情報を文脈情報として用いられやすいような実験状況を設定することを考えている。 第二に、29年度に行った一般的なコンプレックススパン課題で用いられる認知課題(「図形の左右対称性の判断」および「計算式の正しさの正誤判断」)が文脈情報として働く可能性について検討した実験の継続を行う。29年度に示されなかった先述の効果について、時間情報の影響が強いため、相対的に文脈情報の有効性が低下していたことが考えられた。現在、時間情報の影響を限定的なものにする実験手続きを考えており、実験を行う予定である。 これらの研究を通じ、ワーキングメモリ研究を社会的な場面へ適応するだけでなく、その認知的な基盤を明確にすることを目指す。
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