研究課題/領域番号 |
17J05446
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
市位 駿 総合研究大学院大学, 総合研究大学院大学・物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | パラジウム / 檜山カップリング反応 / ppm / プロピレングリコール / スピロシリケート |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ppm 量以下で機能する高活性固定化パラジウム錯体触媒による水中での効率的な有機分子変換プロセスの開発を目的とした。初めに両親媒性反応場として利用可能であることが知られているポリスチレンーポリエチレングリコール共重合体(PS-PEG)をパラジウムNNC-ピンサー型錯体の担体として用いることで、本錯体が固定化両親媒性反応場においても同様に機能するかどうかを検討した。PS-PEGの末端部位にエーテル結合もしくはアミド結合によりパラジウムNNC-ピンサー型錯体を結合させた両親媒精固定化錯体触媒を作成し、水中檜山クロスカップリング反応へと適用することで本触媒の触媒活性を調査した。しかしながら、各種反応剤、反応条件等の最適化を行ったものの、檜山クロスカップリング反応において本触媒の触媒量をppm量以下に低減することは困難であった。 そこで、再度均一系で反応条件を精査したところ、プロピレングリコールを溶媒として用いることにより、わずか5 mol ppm量の本錯体により檜山クロスカップリング反応が効率的に触媒されることが明らかとなった。さらに、本反応は広範な基質一般性を示し、多種の有機官能基を有する基質に適用可能で、いくつかの生理活性物質の合成も達成している。 加えて、本反応の高効率に起因する知見を得るにあたり、各種NMR実験、TEM分析、ESI-MS分析を実施したところ、系中でアリールトリアルコキシシランとプロピレングリコールとの反応により5配位型スピロシリケート中間体が形成されていることが確認され、本中間体が律速段階であるトランスメタル化過程を促進していると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在、社会的に重要視されているグリーンケミストリーや元素戦略の観点から、毒性の低さや豊富な地殻埋蔵量といった利点があるケイ素化合物を用いた檜山カップリング反応は魅力的な分子変換工程と言える。しかしながら、本反応は他のカップリング反応と比べて反応効率に乏しいため、その応用展開はあまり進んでいないのが現状である。 本研究では檜山カップリング反応の効率を改善するべく、各種反応条件の検討に取り組んだ結果、わずか5 ppm量のパラジウム触媒の存在下で効率よく檜山クロスカップリング反応を促進させる手法の開発に成功した。本成果は、医薬品・電子材料等の合成において重要な化学工程である鈴木宮浦クロスカップリング反応やStilleクロスカップリング反応の代替反応となりうる可能性を秘めている。このことから、本成果のインパクトと社会的貢献度は大きいと考えられる。研究進捗状況としては、当該年度に1件の学術誌への論文掲載、1件の特許取得を達成しており、現在取り組んでいる高効率檜山カップリング反応の開発についても研究の終盤に差し掛かっている状況である。よって、当初の目的である高活性固定化パラジウム錯体触媒の開発とは異なる研究ではあるものの、研究進捗状況は良好であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、昨年度に見出したプロピレングリコール中での高効率檜山クロスカップリング反応の確立に注力する。具体的には、DFT計算や放射光分析等を駆使することにより、本反応におけるプロピレングリコールの挙動や役割といった高効率に起因する知見を得る。得られた知見をもとに、本反応の詳細なメカニズムを理解する。 さらに、本研究により得られたクロスカップリング反応におけるプロピレングリコールの重要性に関する知見を、従来の研究目的である高活性両親媒性固定化錯体触媒の開発にフィードバックさせたい。すなわち、プロピレングリコール部位を導入した両親媒性固定化触媒を新たに設計・開発し、ppm 量以下で機能する高活性固定化パラジウム錯体触媒の実現に取り組む。
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