研究課題
本研究の目的は、木星磁気圏からの広がったX線放射という日本のX線天文衛星「すざく」で見つかってきた新しい放射を「その場」観測で探るものである。そのために、(1) 探査衛星に搭載できる超軽量・広視野X線望遠鏡を開発し、近地球軌道の超小型衛星で宇宙実証を進めるとともに、(2) 「すざく」など天文衛星で得られたデータを解析し、木星磁気圏からのX線放射モデルを構築することを目指す。(1) 本望遠鏡はマイクロマシン技術を複合的に用いることで完成する。本年度は引き続き望遠鏡の要素技術改良に取り組み、角度分解能を向上させることに成功した。ドライエッチングでシリコン基板に微細穴を開け、アニ―ルで側壁を加工することで反射鏡とする手法であり、側壁の面粗さ (形状精度) と、鏡の配置精度が課題である。私はグループメンバーと共に、水素アニールによる側壁の平坦化に取り組んだ。今年度は100時間の超長時間加工を実施し、形状精度については目標を満足しうる十分な改善を達成した。微細穴の側壁に発生した側壁の端に形成されてしまうバリやくぼみといった特徴的な構造が、異なる角度成分をもつために像が広がってしまうことを突き止めた。これらの構造に対して有効な技術として様々なの新プロセスを試した。(2) X線天文衛星「すざく」を用いた太陽活動極大における木星放射線帯からの広がったX線の研究を進めた。2006 年の「すざく」観測で発見された木星の周りに広がった硬X線放射について、その後の 2012 年、2014 年の「すざく」による観測データを空間・エネルギー分布の両面から解析し、木星磁気圏内の数十 MeV 電子による逆コンプトン散乱という仮説を支持する結果を得た。2014 年の観測結果については査読付き主著論文などで発信している他、口頭にて発表した地球電磁気・地球惑星圏学会では学生発表賞の優秀発表者に選出された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、日本の「すざく」衛星によってその存在が示唆されている木星磁気圏からの広がったX線について、「すざく」等の系統的なデータ解析によって、その放射機構を含む性質を明らかにすると共に、我々の研究グループが開発する独自の超軽量X線望遠鏡を将来衛星に向けて完成させることである。申請者は「すざく」衛星の複数の時期における木星観測に着目し、太陽活動に対する広がったX線の光度およびスペクトル形状の変動を調べ、既に報告されている2006年の太陽活動極小期に対して、2014年の太陽活動極大期において、スペクトル形状は似通っているが、広がりがより大きくなり、光度も増加傾向にあることを明らかにして、主著者として論文投稿し、学会発表を行って発表賞も受賞した。さらに2012年のデータも解析中であり、次年度に博士論文および投稿論文としてまとめる予定である。並行して超軽量X線望遠鏡についても、超長時間アニール、原子層堆積法によるPt膜付け等をチームと共に行い、形状精度と表面粗さに改善をもたらした。開発に関連して主著者として1本、共著者として1本論文を発表し、1つはEditor’s choice に選定された。さらに共著者として論文投稿予定である。なお本望遠鏡は当初、大質量ブラックホール観測計画 ORBIS に搭載しての宇宙実証が見込まれていたが、当計画のスケジュールの変更により、現在提案中の地球磁気圏可視化計画 GEO-X での宇宙実証を目指すこととなった。GEO-X 計画は 2022 年度以降の打ち上げを目指す超小型衛星計画で、X線観測により地球磁気圏の主要な構造であるカスプやシースの時間・空間変動を捉えることを目標としている。角度分解能目標は ORBIS と同じ <10 分角であり、開発スケジュールは特に変更しない。
次年度は本研究計画の最終年度となる。「すざく」の木星観測データの解析については、これまでに得た結果をもとに、太陽活動や木星磁気圏の粒子分布に注目した議論を加え、博士論文としてまとめる。私が特に注目している木星磁気圏からの広がった放射の他、オーロラ領域や低中緯度領域からのX線放射も含めて、木星からのX線放射を体系的にまとめることは、将来の木星探査における科学的根拠となりうるため非常に重要であると考えている。太陽活動との相関については、太陽X線などの情報に加え、SUSANOO による太陽風粒子シミュレーションを組み合わせる。SUSANOO は地球周辺の太陽風観測情報をもとに木星近傍での粒子情報を見積もるもので、この結果をX線変動と比較することは広がった硬X線放射の放射メカニズムに関する有益な情報となる。並行して望遠鏡の開発も進める。次年度には角度分解能を改善した上で、本格的な搭載を目指して Wolter I 型に組み上げた性能評価を行う。角度分解能に関しては、形状精度だけでなく配置精度の向上も期待する。高温塑性変形プロセスで用いる治具と光学系デザインの改良を検討しており、これによって配置精度目標を達成できる見通しである。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件)
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