強磁性超伝導体UCoGeに対して,圧力によって強磁性が抑制され,強磁性揺らぎが変化する様子が核四重極共鳴により明らかとなった.この揺らぎと超伝導転移温度の圧力依存性がよく一致しており,当初の目的の通り,この系で強磁性揺らぎが超伝導を引き起こしていることが明確となった.超伝導引力機構が特定される系は,非従来型超伝導では例が少なく,この物質が超伝導の研究において極めて重要であることがわかる.また,この測定では強磁性の量子相転移が一次であることも明らかになった.遍歴強磁性の低温における振る舞いはいまだに謎が多く理解の途上にあるが,今回の研究成果は理論で指摘されているように低温で強磁性転移が一次相転移に切り替わることを支持する. 強磁性が消失した圧力領域で磁場を印加して核磁気共鳴測定を行い,UCoGeの超伝導対称性がスピン三重項である可能性が高いことが微視的に明らかとなった.超伝導状態におけるスペクトルの線幅の増大が観測され,これはスピン磁化率が超伝導で異常を示すことを示唆する.スピン三重項超伝導は希少であり,今回の結果はこの超伝導対称性をより深く理解するうえで意義深いといえる. UCoGeは圧力に加えて特定の方向の磁場によっても強磁性が抑制されることが知られているが,本研究では当初の計画通り高い磁場を印加してその抑制の振る舞いを核磁気共鳴から詳細に調べた.その結果,ある磁場強度で強磁性揺らぎが極大となり,それが超伝導の磁場による増強に密接に関係してることが裏付けられた.さらに揺らぎの異方性を磁場下では初めて測定し,磁場下であっても磁化容易軸方向に揺らぎが大きいという異方性を持つことが明らかとなった.この磁気異方性は関連物質であるURhGeとは明確に異なり,両物質の超伝導引力機構の詳細な理解につながると期待される.
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