研究課題/領域番号 |
17J05552
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
辻 大輔 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 粉体物理 / 非線形拡散輸送 / 天体地形緩和 |
研究実績の概要 |
振動により駆動される粉体流のフラックスを定量的に記述するモデルを構築することに成功し、本研究課題の第一段階の目的を順調に達成することができた。昨年度までの段階で傾斜粉体層に鉛直振動を加えて流動化した粉体流のフラックスを測定するために正確にコントロールされた実験を既に行っていたので、今年度はまずそれらのデータを系統的に解析することから始めた。その結果、振動により駆動される粉体流のフラックスは、4つの実験パラメーター(粉体層の傾斜角、高さ、バルク摩擦係数、及び加える振動の最大速度)と1つの実験条件に依存しない普遍定数で記述できることが分かった。そして、これらのデータの傾向を、粉体の流れを連続体ブロックの輸送と近似したマクロ的な視点から現象論的に導出した非線形拡散輸送モデルにより整合的に説明することができた。このモデルに従うと、前述の普遍定数は鉛直方向から加えられた振動エネルギーが粉体の水平方向の輸送エネルギーに変換される割合を意味している。この変換効率が実験条件に依存しないという事実は、本結果の他分野への応用の可能性を飛躍的に広げるものであると期待できる。例えば惑星科学分野では、小天体に隕石が衝突した際に生じる地震動により、レゴリスと呼ばれる粉体層に形成されている特徴的な地形(クレーターなど)が緩和すると考えられてきたが、地震動の強さと粉体層地形の緩和を結びつける実験的な知見が不足していた。そこで、本研究から得られた粉体の非線形拡散輸送モデルと変換効率の普遍性を用いて、小天体に衝突する隕石のサイズと生じた地震動により緩和して消失するクレーターのサイズの関係を定量的に見積もることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
振動によって駆動される粉体流のフラックスを記述する粉体流輸送モデルを構築して、実験データを整合的に説明することができたという点では、研究の進捗は順調であると言える。さらに、粉体流の輸送特性が1つの普遍定数によって系統的にコントロールされているという発見によりモデルの応用性が飛躍的に拡大したことが、予想以上に本研究課題を発展させた点として挙げられる。実際にこの発見を利用して、研究課題開始当初は今年度中に達成することが難しいと思われていた天体地形緩和現象の定量的な評価を近似的に行なうことができた。これらの結果は国際学術雑誌に掲載されたことに加え、粉体物理学分野と惑星科学分野の両学会で本研究内容に関する発表賞を受賞しており、多方面から一定の評価を受けている。 以上より、当初の計画以上に本研究課題は進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次なる研究課題へのアプローチとして、粒子レベルのミクロな視点から粉体流のダイナミクスを記述するモデルを構築することを目指す。前述の非線形拡散輸送モデルでは粉体流のバルクとしてのフラックスを記述することはできるが、粉体流の内部の速度構造に関しては記述することができないという未解決問題が残されていた。また、変換効率を意味する普遍定数の数値が物理的にどのような要素で決まるのかも分かっていなかった。これらの問題点を解決するためにDEM(離散要素法)と呼ばれる数値計算の手法を用いて振動により傾斜粉体層が流動化して流れ出す実験を再現する。DEMとは粉体粒子間の接触・滑動を考慮して、各時刻におけるそれぞれの粒子の運動を逐次追跡して解析する手法である。DEMを使用する利点として、実験では観測することができない砂山内部の粒子の運動なども解析することができるという点が挙げられる。本研究では実験データと数値計算を相補完的に利用することにより、上記の研究目的を達成することを試みる。 現段階で、円盤粒子を用いた2次元系ではあるが数値計算コードをある程度完成させており、予備的に解析の第一ステップを既に行っている。その結果、2次元DEMを用いて実験を再現した数値計算結果でも3次元実験と同じく非線形拡散輸送モデルが成り立つということが分かった。今後は数値計算コードを球粒子を用いた3次元系に拡張させ、実験結果との整合性を議論する。そして最終的には、粉体流の内部速度構造について2次元と3次元ともに流れの特性を系統的に調べ上げて、粒子レベルで粉体流ダイナミクスを予想できるように非線形拡散輸送モデルを改良することを目指す。
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