本研究の目的は、生殖中枢を制御するエストロゲン(E2)の正負フィードバックを担う分子メカニズムの解明である。哺乳類の生殖中枢であるキスペプチンニューロンに着目し、E2によるキスぺプチン遺伝子(Kiss1)発現及びキスペプチン分泌制御における分子メカニズムを解明するため、昨年度は以下の実験を遂行した。 ①Kiss1発現制御候補因子の機能解析 E2有無条件下のマウス弓状核由来のキスペプチンニューロン不死化細胞株(mHypoA-55株)において、ヒストン修飾関連タンパク質retinoblastoma-binding protein 7(Rbbp7)遺伝子に対するsiRNAを導入し、Rbbp7ノックダウンを行い、Kiss1発現への影響をRT-qPCR法により検討した。その結果、Rbbp7ノックダウンにより、Kiss1 発現が有意に減少した。このとき、siRNAによりRbbp7遺伝子発現及びRBBP7タンパク質発現は有意に減少していた。Kiss1及びRbbp7いずれの発現においても、E2の有無による変化は認められなかった。以上から、RBBP7がE2非依存的に、キスペプチンニューロンにおけるKiss1発現のupregulationを仲介する可能性が示唆された。 ②キスペプチン分泌制御因子の探索及び機能解析 キスペプチン分泌におけるエストロゲンの負のフィードバックメカニズムに、synaptosomal nerve-associated protein 25(SNAP-25)の発現が関与するという仮説のもと、 mHypoA-55株にE2を添加し、Snap25 遺伝子発現を RT-qPCR 法により検討した結果、E2によってSnap25 遺伝子発現が有意に増加した。よって、弓状核キスペプチンニューロンにおいてSNAP-25がE2による制御を受け、何らかの分泌を制御していると考えられた。
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