研究実績の概要 |
ヘリセンは、芳香環がオルト位で縮環したらせん型π共役系であり、動的ならせん反転挙動やキラル光学特性を有する化合物群である。その中でもπ共役系に複数のヘリセン構造を含む『多重ヘリセン』は、円偏光発光特性の向上(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5555.)や特異な分子集積様式(J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 7763.)を示すことから近年注目を集めている。今回我々は、5回対称性をもつはじめての多重ヘリセンである5重[6]ヘリセンの合成に成功し、5重[6]ヘリセンのラセミ化障壁について実験および計算の両面から解析した(Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 1337.)。5重[6]ヘリセンの合成は、5つのクロロ基をもつ前駆体を原料として、パラジウム触媒をもちいた脱塩化水素を伴う環化反応によりおこなった。X線結晶構造解析から、5重[6]ヘリセンがらせん不斉のそろったプロペラ型構造であることを明らかにした。さらにキラルHPLCによって5重[6]ヘリセンの不斉分割に成功し、ラセミ化速度からその障壁を算出した。これはDFT計算によって見積もられた値と良い一致を示したことから、律速段階は5つのヘリセン構造のうちひとつ目のらせん反転の段階であると示唆される。また、5重[6]ヘリセンのラセミ化障壁は[6]ヘリセンの値と比較すると若干低く、これは中心のコラニュレン骨格の歪みがらせん反転を容易にしているためであると考えられる。また、5重[6]ヘリセンの蛍光・吸収および円二色性も光学測定により明らかにした。
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