研究課題/領域番号 |
17J05756
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
豊巻 治也 北海道大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 鉛 / 重金属 / 環境汚染 / ザンビア / 発展途上国 / 行動モニタリング |
研究実績の概要 |
昨年度に行ったKabwe市全域を対象とした疫学調査の試料は、ザンビア保健省からの輸入許可が必要であったが手続きに時間を要した。年度末に輸入許可が降り、来年度初めに輸入予定である。
昨年度に調査地域のヒトの母子から採取した試料の重金属濃度の測定を、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いて行った。現地で簡易血中鉛濃度測定器(LeadCare II)を用いて測定したデータとICP-MSの結果に強い正の相関が見られ、調査地域でもLeadCareIIによる血中鉛濃度の測定が十分に行えることが示唆された。LeadCareIIの測定データと同様にICP-MSの測定データでも、母子の血中鉛濃度に有意な正の相関が見られた。母乳中の鉛濃度が母親の血中鉛濃度の1/10程度であった一方で、乳幼児の糞便からは血中鉛濃度よりはるかに高い鉛濃度が確認された。このことから乳幼児の曝露源としては母乳ではなく、土壌など環境からの曝露が多いことが示唆された。
昨年度に行った、動物の鉛曝露とその行動の関係性に関する調査で採取した環境試料(土壌と飲料水)の重金属濃度測定をICP-MSを用いて行った。土壌試料からは高濃度の鉛が検出され、土壌中鉛濃度と鉱床の距離に強い負の相関が見られた。イヌの血中鉛濃度と土壌中の血中鉛濃度には強い正の相関があったことから、土壌がイヌの主要な鉛曝露源であることが示唆された。血漿を用いた生化学検査では、いくつかの腎機能及び肝機能のバイオマーカーと血中鉛濃度に有意な相関が見られたことから、鉛曝露によるイヌの健康被害が示唆された。血液試料はGPS装着前後でそれぞれ採取を行ったが、GPS装着前後でオス、メスともに有意な中鉛濃度の減少が見られた。調査時期は丁度雨季の終わりに当たるが、雨季の期間は雨の影響により環境中からの鉛曝露が低下していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では昨年度に既に研究計画で第1年度に予定していたサンプリングと併せて、第2年度及び第3年度で予定していたサンプリングを行っている。今年度はその採取した様々な試料の解析を大幅に進めることができた。以上のことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
疫学調査のヒト試料に関しては今年度ザンビアから輸入することができなかったが、来年度の初めに輸入できる見込みが既に立っているため、輸入でき次第ICP-MSを用いた重金属濃度の測定や、血漿を用いた生化学検査を行う予定である。
ヒトの母子の鉛暴露に関する研究に関しては、土壌などの環境試料も含めた各種資料の鉛安定同位体比の測定をマルチコレクター型ICP-MSを使用して行い、Kabwe地域内の鉛曝露の汚染源の解明を行っていく予定である。また、鉛曝露による健康被害を解明するべく、母親の血漿試料を用いて腎機能及び肝機能の生化学検査や、重金属をバインドするタンパク質として知られているメタロチネインの濃度測定を行う予定である。
GPSを用いたイヌの行動と血中鉛濃度の関係性に関する研究に関しては、GPSデータをより詳細にスクリーニングし、精度の高い解析を行っていく予定である。動物モデルを用いたキレ-ション治療に関しては、GPSを用いたイヌの行動と血中鉛濃度の関係性に関する研究のデータをもとに計画を修正し、来年度行っていく予定である。
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