本研究では現在までにマウス筋芽細胞c2c12細胞を用いた実験系において、細胞膜の構成成分の一種である糖脂質の構造が大きく変化することを見いだしてきた。特に糖鎖末端にシアル酸を持つ酸性糖脂質、ガングリオシドは、筋分化に伴い主要なシアル酸分子種がNeu5AcからNeu5Gcへと変化し、また疎水性部位であるセラミドのアシル鎖分子種が、C24からC16へと劇的に変化することを見いだした。 本研究は今年度、セラミドアシル鎖分子種によって形成される多様な分子種が筋分化過程に与える影響とその機構を明らかにすることを大きな目的とし解析を行った。 本研究では現在までに、筋分化に伴うセラミド分子種に注目し、その発現機構について解析を行った結果、通常知られるCerS6のC末端領域に24塩基挿入されたCerS6-var1が筋分化後期に急激に増加してくることが明らかにしてきた。CerS6var1はマウス・ヒト同様にゲノムからの予測のみで現在までに観察された報告がなく、発現が観察されたのは今回が初めてとなる。そこでCerS6-var1と広く知られるCerS6(CerS6-wt)のセラミド合成能の違いについて明らかにするため解析を行った。その結果CerS6-wtと比較し、CerS6-var1の比活性は31%程度の活性である事が明らかになった。またc2c12細胞CerS6安定発現株を樹立し、細胞機能に与える影響について解析を行った。それぞれの細胞の遊走能についてスクラッチアッセイを行って解析を行った所、CerS6-wtは遊走が抑制するのに対し、CerS6-var1は促進する結果が得られた。セラミド合成活性の低いD242N変異CerS6ではコントロールと比較して遊走能に与える変化は見られなかったことから、これらのCerS6-wtと-var1の遊走能に対する影響はセラミド合成活性依存的である事が明らかになった。
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