研究課題
野生齧歯類はハンタウイルス等種々の人獣共通感染症を媒介するためワルファリンなど殺鼠剤での駆除が行われてきた。しかしこれに抵抗性を示す個体群が世界各地に出現し駆除困難である。この原因として抵抗性メカニズムの全貌が不透明な事が挙げられる。当該研究では抵抗性齧歯類に対しても有効となり得る新規殺鼠剤の開発を目指し、東京の抵抗性齧歯類を継代したクローズドコロニーを用い抵抗性分子メカニズムを解析した。殺鼠剤標的分子ビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)に対して酵素速度論的解析及びin silicoでの結合シミュレーションを実施し、抵抗性への影響が不透明であった結合ポケット外の変異も間接的に結合サイトと殺鼠剤の親和性を低下する事を示した。また、本変異によりVKORの還元活性自体が顕著に低下する事が判明した。加えて、本抵抗性群は解糖系の側路であるペントースリン酸経路におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)産生能が高い事が判明した。NADPHは薬物代謝酵素シトクロムP450等の電子供与体として機能する。本抵抗性群では高NADPH産生能により肝臓でのP450による殺鼠剤解毒能が向上しているという新規メカニズムを有している事が示唆される結果が得られた。以上、本研究から殺鼠剤抵抗性には標的分子VKORの変異に加え、ペントースリン酸経路やシトクロムP450といった複合的な要素が関与する事が明らかとなり、以上の要素を標的とする新規殺鼠剤への応用などが期待される。また、殺鼠剤散布の野生動物への影響を評価するため小笠原諸島の野生動物の殺鼠剤感受性評価を行った。アオウミガメは殺鼠剤の体内半減期が長く蓄積性が高い傾向があった。一方フルーツバットは殺鼠剤の代謝能が高いなど感受性には大きな動物種差が存在する事が示唆され、実験動物に加え動物種横断的な評価が求められる結果となった。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件) 図書 (1件)
Veterinary and Animal Science
巻: 9 ページ: 100095
doi.org/10.1016/j.vas.2020.100095