ジフテリア菌に由来するCas9によるRNA依存的なDNA切断機構を解明するため、Cas9とRNAとDNA複合体のX線結晶構造解析およびCas9の生化学的解析を行った。前年度の研究でガイド長22塩基において、Cas9のIn vitro切断活性が向上することを見出したので、この特性がさまざまなPAMを含む標的配列においても成立するか網羅的に解析を行った。その結果、試した全ての標的配列においても、ガイド長22塩基においてIn vitro切断活性が向上することを確認した。したがって実際のゲノム編集においても、ガイド長を最適化することによって編集効率が大きく上がることが期待され、ゲノム編集技術の利便性を高めたと評価できる。またCas9のニッケース変異体を用いた実験においても、ガイド長22塩基においてIn vitro切断活性が向上したことから、活性向上のメカニズムはCas9のHNHドメイン領域の稼働効率が上がったことによると考えられ、応用のみならず基礎的な知見も得られた。さらに前年度までの研究で明らかになった寛容なPAM配列を含む標的配列を認識する機構を合わせ、以上の成果を学術誌「Nature Communications」に投稿し、受理された。さらに本研究の発展として、一塩基編集酵素を融合したCas9タンパク質のコンストラクトを作製、発現精製をおこない、クライオ電子顕微鏡による構造解析を試みた。この実験はCas9の融合タンパク質でゲノムを正確に編集することによって、一塩基多型による遺伝病の治療への応用を目指した取り組みである。融合タンパク質のコンストラクトの種類やバッファー条件などの検討を重ねた結果、クライオ電子顕微鏡での観察に適した条件を見出した。今後の詳細な構造解析および、構造情報を基にしたコンストラクト改変により一塩基編集の精度向上が期待される。
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