研究課題/領域番号 |
17J05849
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平田 悠歩 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 線量計 / 光刺激蛍光体 / 光ファイバー / 炭素線治療 / 消光現象 |
研究実績の概要 |
本研究では、粒子線治療を行う際に体内に挿入し患部周辺にてリアルタイムで線量測定を行うための小型線量計の開発を行っている。線量計素子として用いている光刺激蛍光体は粒子線の高線エネルギー付与(LET)領域において感度が低下する。感度低下の補正を行うために本研究では、感度低下の程度の蛍光体による違いを用いて補正を行う手法を提案している。今年度は、光刺激蛍光体であるEu:BaFBrとCe:CaF2を一本の光ファイバーの先端に配したハイブリッド線量計及び両者の信号を同時に取得できる読み出しシステムを整備した。作製したハイブリッド線量計に炭素線照射実験を行い、補正の可能性を評価した。また、照射粒子に対する依存性を調査するため小型線量計にヘリウム線と陽子線の照射実験を行った。 今回新たに開発した小型線量計では、光ファイバーの先端に二つの光刺激蛍光体を層状に配した。ダイクロイックミラーによる光刺激蛍光弁別システムを構築しそれぞれの信号を取得した。ハイブリッド線量計への炭素線照射実験では二つの光刺激蛍光体は異なる蛍光感度の低下を示した。単色の炭素線により得られた発光効率比と発光効率の関係を用いて、実際の治療場に近い線量分布であるSpread Out Bragg peak (SOBP)を測定した結果の補正を行った。SOBPの前半部分は電離箱に近い値に補正されたが、後半部分において線量計応答が低かった。SOBPの後半の領域では炭素線が核破砕したフラグメント粒子が多く存在している。その影響から、発光効率と発光効率比の関係が異なってしまったことが考えられる。 150 MeV/uヘリウム線と225 MeV陽子線の照射実験を行った。Eu:BaFBrについては発光効率の粒子依存は確認できなかった。しかし、Ce:CaF2ではヘリウム線と炭素線を比較したときにLETと発光効率の関係が粒子により異なって観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は全体として計画通りに進んでいる。今回新たに構築した二種類の光刺激蛍光体を一本の光ファイバーに配した小型線量計システムでは、二つの光刺激蛍光を別々に取得することができている。そして炭素線に対しては二つの光刺激蛍光が異なる感度変化を示している。これにより二種類の光刺激蛍光体の発光量比を用いた補正方法が実用可能であることが示された。 蛍光体感度の照射粒子依存については、詳細なメカニズムなどは解明できてはいない。しかし、ヘリウム線照射により応答のひずみを測定できたことから今後さらに調査することが可能である。 以上のことから本研究は着実に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行ったEu:BaFBrとCe:CaF2の発光量比を用いた消光現象の補正では、単色で得られた補正関数でSOBPの補正を行った際に、SOBP後半において単色と比較して応答がゆがんだ。この問題はSOBP後半に多数存在するフラグメント粒子の影響が考えられるため、小型線量計の応答の粒子依存性を確認する必要がある。放射線医学総合研究所のHIMACでは炭素線のほかに、ヘリウム、窒素、酸素、ネオン、シリコン、アルゴン、鉄イオンの照射が可能である。二年目においては炭素線よりも重い粒子線においてはLETの影響がより大きく見られる可能性が高いので、ネオン線照射実験による線量計の応答を調査する予定である。 小型線量計を実際の治療場において使用するために、放射線による線量計の劣化は確認しなければならない問題である。そこで小型線量計に高線量率で放射線照射を行い放射線耐性の確認を行う。開発している小型線量計は、光刺激蛍光素子、光ファイバー、透明接着剤、反射材などを使用している。取得される線量計応答はこれらの透過率や反射率などの影響も強く植えるため、それぞれ別々に放射線照射を行いどの要素がどのように変化していくかを詳細に評価する予定である。 小型線量計に使用している光刺激蛍光体は放射線の巨大な励起エネルギーにより価電子帯の電子に限らず内殻電子をも励起し、加えて伝導帯下端よりも相当高いエネルギーレベルまで励起された後、緩和過程を経た後、発光過程に至る。そのため、発光メカニズムは未だにその詳細が解明できていないのが現状である。また、本研究において課題となっている高LET領域における感度低下を調査するためにも発光メカニズムの解明が必要である。そこで、発光過程について知見を得る一つのアプローチとして光刺激蛍光のモデル化による評価を行う予定である。
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