研究課題/領域番号 |
17J05866
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
上垣 日育 京都産業大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化還元酵素 / 小胞体還元力導入機構 |
研究実績の概要 |
小胞体は膜・分泌タンパク質の合成の場であり、その恒常性は小胞体品質管理機構によって厳密に保たれている。小胞体品質管理機構にはタンパク質の恒常性、カルシウム調節と酸化還元環境が密接にクロストークし、維持されている。当研究室はその中心的な役割を担う世界で初めての小胞体還元酵素としてERdj5を同定し、小胞体恒常性維持において還元反応が重要であることを証明してきた。しかし、どのようなメカニズムで酸化的な環境である小胞体でERdj5に還元力が供給されるのかは未だわかっていない。そこで、私は質量分析を用い、ERdj5の還元酵素候補因子の探索をした。その結果、候補因子として小胞体酸化酵素Ero1を同定し、ERdj5と結合することを見出した。また、免疫沈降実験による詳細な解析から、Ero1はERdj5の還元活性のあるTrx3とTrx4に特異的に結合することが示唆された。一方、ERdj5はEro1が酸化活性を有しているシステインペアとは別の新たなシステインペアと結合し、その相互作用にはERdj5のダイナミックな構造変化が関与することが明らかになった。次に、Ero1によるERdj5の酸化還元状態の影響を観察するためPEGシフトアッセイをした。その結果、Ero1の過剰発現では特異的にERdj5のTrx3とTrx4が還元型に移行し、Ero1のノックダウンではERdj5が酸化型に移行することが観察された。Ero1は新生ポリペプチド鎖から奪った電子を、分子状酸素に受け渡し、過酸化酸素を発生させ、酸化反応を終結するのがこれまでの常識であった。上記一連の結果から、Ero1がERdj5の還元酵素であることを示しただけでなく、小胞体に挿入される新生鎖が小胞体での還元力である可能性を見出した。このことは小胞体還元力導入機構における新しい概念として、当分野において大きなインパクトを与えると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体酸化酵素Ero1によるERdj5の還元メカニズムを証明するため、免疫沈降実験及びドッキングシミュレーションによるERdj5とEro1の結合サイトの同定とPEGシフトアッセイによるEro1からERdj5への電子リレーの解析を重点的に進めた。ERdj5にはN末端から酸化還元反応を触媒するCys-X-X-Cys(CXXC)モチーフを含むチオレドキシン様ドメイン(Trx1~Trx4)が4つあり、C末端側から2つのTrx3とTrx4に還元活性を有している。免疫沈降実験による解析から、Ero1はERdj5のTrx3とTrx4に特異的に結合することを明らかにした。一方、Ero1はいくつかの分子内ジスルフィド結合を有しており、PDIはEro1のシステインペアCys94-Cys99に電子を受け渡すことで基質の酸化反応を触媒する。しかし、ERdj5はそのシステインペアとは独立し、これまで機能未知とされていたシステインペアCys85-Cys391と結合した。さらに、東北大学稲葉教授との共同研究によるドッキングシミュレーションからもERdj5はEro1のCys85-Cys391近傍にTrx3とTrx4のCXXCモチーフが相互作用することが示唆され、その相互作用にはERdj5の構造変化が関与する可能性も明らかとなった。PEGシフトアッセイではEro1によるERdj5の各Trx1~4ドメインのレドックス状態への影響を観察した。Ero1過剰発現ではERdj5のTrx1とTrx2は変化せず、Trx3とTrx4のみ還元型が増加し、Cys85-Cys391を欠失させたEro1の変異体ではERdj5の還元は観察されなかった。対して、Ero1ノックダウンではERdj5のレドックス状態が酸化型に移行することが明らかになった。これらのことから、細胞内でEro1がERdj5の還元酵素として働くことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
小胞体ではPDIに代表される酸化酵素が新生ポリペプチド鎖(基質)の酸化反応を触媒し、基質から奪った電子は酸化酵素からPDI、Ero1を介して、分子状酸素に受け渡される。Ero1-PDI複合体はハブとして中心的な役割を果たし、他の酸化酵素と酸化ネットワークを形成し、効率の良い酸化的フォールディングを実現している。現在までの進捗状況に記載した通り、小胞体で酸化酵素として働くEro1がERdj5の還元ドナーである結果を得ることができた。これらのことから、小胞体への還元力供給源はリボソームから合成される新生ポリペプチド鎖から供給されていることが推察できる。今後の方針としては、Ero1とERdj5のリコンビナントタンパク質を精製し、試験管内でEro1からERdj5への電子リレーを明らかにしていく。溶存酸素系ではERdj5がEro1による酸素消費を阻害できるか観察する。インシュリン還元活性法ではERdj5の還元活性がEro1によって促進するか調べる。さらに、新生ポリペプチド鎖からのEro1-ERdj5への還元力獲得の証明をするため、シクロへキシミド(CHX)処理によりリボソームからの新生鎖を阻害し、ERdj5の酸化還元状態の変化について観察する。試験管内ではin vitro translation systemを利用し、新ポリペプチド鎖-Ero1-ERdj5への電子リレーを再構築したい。以上の研究により、Ero1が小胞体内で還元酵素として働く新しい概念と、ERdj5の還元メカニズムを証明し論文投稿を目指す。
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