研究課題/領域番号 |
17J05875
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 厚資 北海道大学, 獣医学研究院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | プラスチック摂食 / プラスチック添加剤 / 海鳥 |
研究実績の概要 |
①海鳥への添加剤含有プラスチック投与実験、化学物質蓄積の分析:野外におけるプラスチック投与実験でプラスチックに添加して投与した5種の化学物質(ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)1種類、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3種類、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤1種類)について、オオミズナギドリの肝臓、腹腔内脂肪、尾腺ワックス、投与プラスチックの化学分析を行い、プラスチック由来の化学物質が海鳥の体に移行、蓄積することを明らかにした。 ②海鳥への添加剤含有プラスチック投与実験、毒性影響の分析:①と同じ試料について肝臓での遺伝子発現解析を行った。肝臓から抽出したTotal RNAをプールしたサンプルについて次世代シークエンサーでの分析、de novo解析、データベースからのアノテーションをつけることによって、遺伝子の配列等を明らかにし、さらに発現が変動している遺伝子を抽出した。その結果、薬物代謝に関連する酵素などが誘導されている可能性が示唆された。 ③ オオミズナギドリの室内飼育、プラスチック投与実験の方法の検討:野生のオオミズナギドリの卵を北海道大学獣医学部の動物飼育実験室に搬入し、孵卵器での孵化、二ヶ月間の飼育の方法を検討した。餌はイカナゴ、魚油、ビタミン剤等を与えた。はじめは1日5回程度、後期は1日2回(朝、夜)とした。体重の増加は野生個体と比べて遅かった。糞の状態等から消化の不良等も疑われた。最終的に孵化に成功したうちの半分の個体が実験終了までの間に死亡し、飼育方法の確立には至らなかったが、死亡の原因等については解剖によって組織の状態を調べ、改善すべき点を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学分析について、メソッド作成に時間を要したものの、最終的に高い質で実際のサンプルの分析を行うことができた。分析の結果、目的としていた物質の蓄積を明確に検出することができ、発表に向けて採取段階の準備を進めている段階である。次世代シークエンサーでのRNA sequenceは、肝臓については完了し、続く詳細な分析に入っている。加えて、海鳥に投与していたプラスチックの分析も、分析法の開発を含め進めてきており、投与実験で得られた試料についてはすでに完了した。鳥の体内での化学物質溶出促進機構に重要な示唆となる結果が得られており、今後さらに研究を進めていきたいと考えている。予定より大きな遅れはなく、確実に進めており、進捗状況としては順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
①平成29年度に行ったプラスチック投与実験試料の毒性影響の分析 肝臓での遺伝子発現解析(次世代シークエンサーでの分析)により、多くの遺伝子の配列等を明らかにし、さらに発現が変動している遺伝子を抽出した。その結果にもとづき、今後は特に注目すべき遺伝子の発現の変化を個体ごとに定量していく。甲状腺ホルモン関連、薬物代謝酵素関連の遺伝子、あるいは次世代シークエンサーでの分析で変動が示唆されたものに注目し、リアルタイムPCRでの分析を行っていく。さらに、同様の分析を多臓器についても行っていく。甲状腺、副腎などを予定している。 ② 遺伝子発現による最終産物の分析 遺伝子発現の変動が見られた遺伝子について、その最終産物として変動する生体の因子について調べることを予定している。生体内での実際の影響を見ることを目的とする。例としては、ステロイドホルモン濃度の変動、たんぱく質濃度の変動、酵素活性の変動などが考えられる。各組織について遺伝子発現解析を進め、その結果に基づき、ターゲットとする対象など内容を検討する。
|
備考 |
岩波書店『科学』2019年1月号、特集「プラスチック汚染:海に広がる脅威からの転換」、海洋プラスチックから海鳥への汚染物質の移行と影響(ページ56~62)、2018年12月21日刊行
|