本研究の目的は、被災によるコミュニティの再編・変動という視座から被災地の観光事象を捉え、観光を通じた災害復興の可能性とその形成要因について明らかにすることにある。具体的には、2010年に発生したインドネシア・ムラピ山噴火災害を事例に、課題A「復旧・復興過程においてどのように観光が成立し、変容していったのか」、課題B「展開された観光は、被災者の復興にどのような影響を与えたのか(正の影響・負の影響)」に取り組むことで、他の社会的集団への働きかけ・関係構築を通じ、観光の弊害を押さえるとともに、自らの復興に利するものへと観光を変容させていくコミュニティのダイナミズムを捉えることを試みた。 本年度は、観光を通じた災害復興を可能にした社会的要因を明らかにすべく現地調査を実施した(2017年8月1日~9月18日)。現地調査は、質問票調査、および半構造化インタビューから構成される。質問票調査は、被災地観光の中心であるジープツアーを運営する全30団体を対象に実施し、27団体から回答を得た。質問票調査では、団体ごとの運営状況の変遷把握を目的として、各年のメンバー数やジープ台数、平均稼動回数などについて尋ね、その後、あわせて半構造化インタビューを行い、運営方針や設立の経緯などの聞き取りから、団体ごとの差異の把握を目指した。 結果、ムラピ山噴火災害の復興過程から、被災を契機に地域社会に流入するよそもの(Outsider)とのせめぎあいをいとわない開放性と、成員の多様化によって生まれた新たな活力を、社会全体へ平準化する共同性の上に存立する地域社会のレジリエンスを見出すに至った。
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