本研究は,浮遊性有孔虫の「光共生度」が,海域の生産性(動植物プランクトン密度)によって決定される,という仮説の検証を起点とし,最終的には,浮遊性有孔虫の光共生性を間接指標とした古海洋の動植物プランクトンの密度プロキシを創設することを目的としている. 平成31年度/令和元年度はまず,どのような有孔虫種が何と共生関係を築いているかという基礎情報の整理を行うため,遺伝子実験に着手し,共生関係のパートナーシップを特定する解析を行った.また同時に,各有孔虫個体が捕食している餌についても解析できるため,本研究課題設定の大前提である,有孔虫と他生物との相互作用(捕食)についての情報を得ることができている.遺伝子実験によって明らかにした共生のパートナーシップに関する結果は,現在データを取りまとめている段階にあり,論文出版に向けて準備を行っている. また,「光共生度」を古環境プロキシとして用いることに関しては,これまでに公表されている表層堆積物中の浮遊性有孔虫の群集組成をまとめたパブリックデータベースを利用して,全球レベルの光共生度を算出した.また,衛星観測のデータベースを利用して,表層水温や一次生産速度が,浮遊性有孔虫の光共生度や種の多様度とどのように関係しているのかを,統計モデルを用いて解析を行っている.現時点の解析状況では,光共生度や多様度(有孔虫群集のみから得られるパラメータ)を説明変数として,一般化加法モデルによって,表層水温を非常に精度よく予測できること,また一次生産速度についても予測可能であるという予察を得ており,新たな環境プロキシを提示できる見通しが立っている.
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