研究課題/領域番号 |
17J05890
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐々木 健人 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 量子センシング / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、従来の核磁気共鳴法では実現困難なナノスケールの高空間分解能を持つ核磁気共鳴検出を実現し、ダイヤモンド中の窒素空孔欠陥(NVセンター)を用いた分子構造解析の基盤技術を開発することである。ダイヤモンド表面近傍のNVセンターを用いて、外部分子中のプロトンや炭素同位体核スピンの高感度な検出や核種の決定、核スピンの位置決定技術の実現を目指している。NVセンターを用いた量子磁気センシングは世界的に研究されており、競争が激しい分野である。初年度では外部スピンの検出、核種の決定や、人工的な交流信号の0.3mHzの高周波数分解能を量子ヘテロダイン法により達成し、世界レベルの測定技術を実装した。 本年度では核スピン位置決定技術を開発した。NVセンターとの超微細相互作用ベクトルが核スピン位置を反映することを用い、核スピンの歳差周波数、信号強度、歳差信号位相を測定することで、ダイヤモンド中の単一炭素核スピンの位置する格子サイトを決定するなど実験的に検証した。同時に、核スピンの分極やラジオ波による核磁気共鳴を用いて、量子ヘテロダイン法による炭素核スピンの検出にも成功した。この内容は米国Physics Review B誌のRapid Communicationに筆頭著者論文として出版された。また、同内容について国内外の学会で報告を行い、第39回量子情報技術研究会では学生発表賞に選ばれるなど、素晴らしい研究成果として認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に培った世界レベルの測定技術や作成したラジオ波照射回路に加え、動的核磁気分極を実装したことで、核磁気共鳴により励起した核スピン歳差振動をNVセンターで検出することに成功した。歳差振動の位相情報を用い、先行研究では困難だった三次元的な核スピン位置決定の実験的な検証に成功した。加えて、人工的な交流磁場の検出において従来のコヒーレンス限界を超える高周波数分解能で注目されている高感度な量子ヘテロダイン法を用いて核スピンの検出にも成功し、以上の位置決定手法について学術論文を出版した。分子構造解析の基盤技術である核種決定手法と位置決定手法をそれぞれ達成するだけでなく、高分解能・高感度な手法と統合できたことや、世界に先駆けて研究成果を論文化したことは著しい進展であり、当初の目標以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は外部スピンに対する感度をさらに高めるため、外部スピンの分極や量子ヘテロダイン法による検出手法の検証を行っていく。通常、表面に近いNVセンターで液体中プロトンの測定を行うと、対象分子の拡散によって線幅が数kHz程度に広がってしまうことが先行研究で確認されている。これに対して2018年発表の先行研究では、熱的に分極した核スピンの歳差運動を励起し、大量の深いNVセンターの量子ヘテロダインで測定を行うことで 3Hzという非常に高い周波数分解能を得ている。この量子ヘテロダイン技術を単一NVセンターで応用して感度と周波数分解能の向上を目指す。検出は同位体ダイヤモンド表面のNVセンターを用い、動的核磁気分極によって外部プロトンの分極率を向上し、量子ヘテロダイン検出を行う。また、別方針として高速FPGAとデジタルアナログ変換器を合わせた波形発生器・フォトンカウンティング回路の開発と高磁場の印加と窒素核スピンを用いた高コントラストな射影測定の実装により、ベイズ推定とフィードバック処理系による高次感度スケーリングの室温における検証を行う。室温において磁場感度が測定時間とともに向上する量子計測技術の開発によって、NVセンターの強みを最大限に活用できるようになる。
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