研究課題/領域番号 |
17J05897
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
上野 貴彦 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | インターカルチュラリズム(間文化主義) / うわさ / 多文化共生 / 地域社会 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スペイン・バルセロナを中心に複数の都市で試みられている「反うわさ戦略」(移民への否定的な噂に対する地域社会ぐるみの対抗キャンペーン)の街区への定着や他都市への広がりの過程を分析し、この試みが象徴する、移民を含む地域住民全体の参加と交流に力点を置いたローカルな間文化主義(インターカルチュラリズム)の社会学的特徴を解明することである。 2017年度は、移民統合政策論を参照しつつ、1、バルセロナの「反うわさ戦略」が5年以上継続する中での修正、2、「反うわさ戦略」を移植した他地域の都市(ビルバオ)における共通点と差異、という時間・空間双方の要因に関連付けた調査を実施した。2017年7-8月、および9月の2回、両市とそれぞれの郊外地区に在住する地域住民の自治会、移民団体、行政への聴き取りを行った。また、先行研究で不足している、共生のための政策と人々の日常生活の関連や乖離の分析方法について、イタリア・トレント大学で開かれた移民研究に関するセミナーに参加する中で、欧州各国の研究者と博士課程院生から多くの示唆を得た。住民間の交流促進における、草の根の自治会や移民団体と行政の関係や意思決定過程をめぐるガバナンスのあり方の変容や地域差が明らかになったことで、これを移民の出身国、あるいは異なる行政レベル(国や州)の政策との関連の中に位置付けた上で考察を深めることができた。 これまでの研究成果を発表した2017年6月の関東社会学会、および2017年夏調査で得た知見を組み込んだ2017年11月の日本社会学会での発表では、「反うわさ戦略」に象徴される新しい共生への取り組みがなぜ可能となったのかについて考察を深める上で課題となる、スペインの移民統合政策の欧州の文脈における位置付けについての多くの示唆を頂き、それが分析の精緻化につながった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スペイン・バルセロナ(カタルーニャ州)における調査を継続しつつ、その聴き取り対象地域を広げることができた。また、新たにスペイン・ビルバオ(バスク州)におけるフィールド調査を実施した。2017年にはバルセロナ市ほかでのテロ事件、カタルーニャ独立を問う住民投票とそれに伴う混乱があったものの、ビルバオ調査の成果を踏まえつつ、バルセロナの特殊性を相対化しうる新たな知見を得ていたこともあり、政策の変化に対応した分析枠組みの精緻化ができた。また、これらの成果を2つの学会で発表し、論文執筆に向けた準備を整えることができた。このため、概ね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの調査を通じて、地域住民と移民双方の街区における交流を重視するスペイン型のローカルな間文化主義の成果とともに、移民集団ごとに交流への参加度にばらつきがあることに起因するいくつかの課題が見えてきた。2017年度は交流の推進役であることの多い地域住民の自治会やラテンアメリカ出身者の移民団体を中心にインタビュー調査を実施してきたが、2018年度は交流への参加が新たな偏見を導かないかといった葛藤をより抱えがちな他地域出身移民の生活世界と政策の関係に注目することで、多文化状況における行政と地域住民全体におけるガバナンスのあり方を問う。とりわけ、地域社会への移民統合と言語・労働市場・欧州統合・経済危機などの問題を考察する上で鍵となるルーマニア出身者への聴き取りを充実させ、地域住民のみならず移民集団側が有する偏見やステレオタイプ、そして出身地のコミュニティから移住者に届く噂やまなざしにも留意して考察を進めたい。
|