研究課題/領域番号 |
17J05897
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
上野 貴彦 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | インターカルチュラリズム(間文化主義) / うわさ / 多文化共生 / 地域社会 / ガバナンス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スペイン・バルセロナを中心に複数の都市で試みられている「反うわさ戦略」(移民への否定的な噂に対する地域社会ぐるみの対抗キャンペーン)の街区への定着や他都市への広がりの過程を分析し、この試みが象徴する、移民を含む地域住民全体の参加と交流に力点を置いたローカルな間文化主義(インターカルチュラリズム)の社会学的特徴を解明することである。 2018年度は、バルセロナとビルバオの二都市圏における調査と比較を2017年度に引き続き行った。バルセロナの事例については、まず2010年代後半の政治・社会的変化(市政における政権交代、バルセロナ市ほかでのテロ事件、カタルーニャ独立を問う住民投票とそれに伴う混乱)にもかかわらず、間文化主義的政策・実践が継続した理由を、市町村・地域・国・EUといったレベルのうちどれかのみではなく相互の関係の中で分析した。その上で、バルセロナにおける継続調査を2018年夏に行い、郊外地区を中心に自治会、移民団体、行政への聴き取りを行った。とりわけ、フィリピン人移民団体など、2017年度においては十分に聴き取りを行うことができなかった移民団体に対する重点的な調査を行った。また、バルセロナとの比較対象都市として、外国人人口の増加が比較的遅く、言語・文化的近似性の高いラテンアメリカ出身移民が多く、歴史的な地域主義の文脈が異なるビルバオでの調査を本格化した。一方では政策的なバルセロナとの収斂、他方では住民間の交流促進に向けた、草の根の自治会や移民団体と行政の関係構築アプローチの分岐を確認した。これに加え、都市レベルでの間文化主義についての研究の延長として、後発的な移民受入国としてのスペインのあり方を地域社会の日常レベルから再考するという応用的課題についても検討を開始することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スペインのバルセロナとビルバオにおける調査を継続し、資料調査とフィールドワークを通じたデータを蓄積することを通じて、分析枠組みを精緻化した。また、調査成果を移民政策学会やスペイン史学会などで発表し、多分野の専門家からコメントをいただくことができた。加えて、移民統合政策の国際比較に関する若手シンポジウムへの参加を通じて、日本や韓国における多文化共生の構築をめぐる事例研究との比較可能性についても新たな着想を得た。こうした調査・報告と併行して、バルセロナの事例に関する論文と、バルセロナ・ビルバオ両都市圏の比較に関する論文の2点を投稿し、その過程でも今後の調査や論文執筆に有用なフィードバックを得ることもできた。このため、概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、バルセロナ自治大学東アジア研究所訪問研究員として2019年4月から同年12月までスペインに滞在しつつ、以下のふたつの課題に関する調査を行う。まず、後発移民国スペインにおいて、間文化主義政策や実践のノウハウがいかに他国から、あるいはスペイン内の先進都市から他の都市へと伝播したのかについて、バルセロナ・ビルバオ両都市圏の複数の市町村の政策担当者への聴き取りを通じて分析する。続いて、都市の日常レベルにおける「反うわさ」などの間文化主義政策・実践の浸透のあり方について、上述の政策担当者に加え、移民団体やその他の住民団体の成員からの聴き取りを行う。より具体的には、長期調査を活用し、街区レベルにおける行事等の年間カレンダーを追う形での継続調査を行うことで、日常における偏見やステレオタイプ、あるいは移民出身地のコミュニティから移住者に向けられる噂や偏見などへの対抗について考察する。こうして収集したデータを分析・整理し、得られた成果をスペインと日本での学会発表に結実させる。
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