研究課題/領域番号 |
17J05958
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
森本 凌平 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | Qスイッチ / 磁性ガーネット / 磁気光学効果 / レーザー / マイクロチップレーザー / スピントロニクス / パルスレーザー堆積法 |
研究実績の概要 |
Qスイッチは,光共振器の内部にQスイッチと呼ばれる光変調器を挿入し,高速に光の状態を変調することで,光共振器のQ値をオン・オフする。Q値が低い間はレーザー発振が得られないが,励起されているレーザー結晶内部にはエネルギーが蓄積される。十分な時間が経過したところで高速にQ値を高くすると,蓄積されたエネルギーが誘導放出によって短時間に放出され,時間的にも空間的にも高密度なパルスレーザー出力を得られる。Qスイッチレーザー出力のピーク出力は共振器長に反比例する。Qスイッチは光共振器内部に挿入されているため,小型であることが望まれる。しかし,現在実用化されている電気光学素子や音響光学素子を用いたQスイッチは,結晶長が数センチ以上であり,原理上小型化も難しいという課題がある。 本研究では,薄膜化可能で高速動作もできる磁気光学素子(磁性ガーネット)をQスイッチとして用いる。また,レーザー結晶にも,ガーネット構造を有するネオジウム置換イットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)を用いることで,完全一体型構造の構築を目指す。これにより,既存デバイスの小型化はもちろん,堅牢性も高いため,従来は難しかった車載デバイス等の応用展開も期待できる。特別研究員採用時では,Qスイッチの原理実証が完了していた。本年度は,下記①と②を実施した。 ①Nd:YAG結晶を用いた光共振器におけるQスイッチ評価 ②Nd:YAG結晶上の単結晶ガーネット形成プロセス開発 結果,Nd:YAGレーザーにおいても磁気光学Qスイッチが適用可能であり,またエピタキシャル成長可能であることを示した。よって,完全一体型の磁気光学Qスイッチレーザー構築の基礎プロセスの確認・確立を行えたといえる。また,Qスイッチレーザーのピーク出力は採用時に比べ一桁程度の向上に成功した。 上記の結果について,査読付き論文1報掲載,1報採録済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
完全一体型のQスイッチレーザー構造を実現するため,レーザー結晶上に直接磁性ガーネット膜を形成するプロセス開発に着手した。高品質な磁性ガーネット膜の形成には,同様にガーネット構造を有するレーザー結晶上でエピタキシャル成長を行うことが望ましい。 結晶成長に先立ち,レーザー結晶としてガーネット構造を有するネオジウム置換イットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)結晶を用い,Qスイッチ動作の実証および出力特性の評価を行った。結果,磁性ガーネット膜を用いたQスイッチは,レーザー結晶が異方性・等方性であることを問わず広く応用可能であるという優位性を見出した。また,光学系の改善により,レーザー出力値の大幅な増加を得ている。 Nd:YAG結晶を用いた結晶成長では,多種の磁性ガーネット成膜を行い,エピタキシャル成長が可能であることを確認した。 上記の結果について,査読付き論文を1報掲載,1報採録済であり,非常に順調な進展をみせているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確立した設計手法や成膜プロセスを用いることで,実際にデバイスの構築・評価を行い,駆動部を含めたパッケージ化および金属加工のデモンストレーションを行うことを目標とする。下記計画に沿い、研究を遂行する。 ①高速スイッチ回路の設計開発 小型Qスイッチレーザーのデモンストレーションを行ううえで、現在最も大きな構成品である高速スイッチ回路の小型化を行う。高速な光変調を行うため、磁性ガーネット膜の磁化容易軸を膜面直方向に制御し、必要な印加磁界を小さくすることも必要となる。磁性ガーネットの結晶構造中のFeイオンをAlイオンなどに置換することで結晶磁気異方性を制御し、印加磁界の低減が行えることが知られている。更に、永久磁石を用いた磁界アシストによって、高速スイッチ回路によって磁界印加コイルに流す電流量を小さくすることで、システム全体の小型化を図る。 ②Qスイッチレーザーの完全一体化 レーザー結晶、Qスイッチである磁性ガーネット膜、そしてそれらを挟み込む誘電体多層膜を完全に一体化することで、システムの小型化および高堅牢性を実現する。第一年度には、レーザー結晶上における磁性ガーネット膜の結晶成長を確認した。本年度は、磁性ガーネット膜上に部分反射コーティングを施し、現在厚さ5ミリメートルである大型のアウトプットカップラーの小型化を行う。数値解析による光学設計を行い、反射率の制御された誘電体多層膜を構築する。レーザー結晶には、励起波長における高透過コーティング、発振波長におけkる高反射コーティングを施す。前年度の結晶成長プロセスと合わせることで、完全一体型の磁気光学Qスイッチレーザーを実現する。 以上の計画により、駆動部を含めて超小型なQスイッチレーザーの金属加工デモンストレーションを行う。
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