今年度はトレハロース誘導抵抗性(Trehalose-induced-Systemic-Resistance: TSR)のシグナル伝達を明らかにするため,トレハロース認識機構およびホルモンシグナルの解析を行った. 細胞内のトレハロース濃度上昇がTSRを誘起する可能性を検証するため,トレハロース高蓄積株を作出しTSR様の現象が観察されるか調べた.トレハロース高蓄積株では,根部での防御関連遺伝子の発現上昇および地上部での病害抵抗性獲得が観察されなかった.この結果より,細胞内のトレハロースがTSR様の現象を誘起しないことが明らかとなった.従ってTSRにおけるトレハロース認識は,細胞外で行われる可能性が支持された.またトレハロース受容体候補遺伝子TIRK2について過剰発現株を用いた解析を行った.TIRK2過剰発現株では,より低濃度のトレハロースでも防御関連遺伝子の発現が誘導されたことから,TIRK2がトレハロース認識に関与する可能性が示された.しかし計画していたTIRK2変異株を用いた解析は,変異株の作出に時間を要したため行えず,TIRK2が真のトレハロース受容体であることを証明するには至らなかった.次にTSRにおけるシグナル伝達を植物ホルモンに着目して解析した.ジャスモン酸シグナル依存的なトレハロース誘導性転写因子OsERF83の解析から,ジャスモン酸シグナルがOsERF83を介して根部での防御応答を制御することが明らかとなった.またトレハロース処理がサリチル酸内生量を増加させること,サリチル酸シグナルがTSRの全身抵抗性に関わることも明らかとなった.TSRはジャスモン酸シグナルおよびサリチル酸シグナルの両者に制御されると考えられた.
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