研究課題/領域番号 |
17J06006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊池 亮佑 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 黒雲母 / 風化 / 酸化 / 脱水素化 / 透過型電子顕微鏡 / X線回折 / X線吸収分光 / 赤外分光 |
研究実績の概要 |
原子レベルでの黒雲母の風化過程という研究課題に関して、今年度は以下の4つの小課題について実験および分析を行った。 1、福島県阿武隈花崗岩の風化帯露頭から採取を行った黒雲母試料の鉱物学的・化学的特徴を明らかにするという目的で透過型電子顕微鏡による観察および粉末X線回折による分析を行った結果、同一の露頭から採取して試料間でも黒雲母-バーミキュライト混合層のタイプに違いが見られることを見出した。2、風化した黒雲母中の鉄の価数の分布とバーミキュライト化の分布との関係を明らかにするために放射光を用いたマイクロX線吸収微細構造(マイクロXAFS)による分析を行った。マイクロXAFSの結果に基づくと同一粒子内のバーミキュライト化した部分と黒雲母部分で鉄価数に違いはないことが示唆され、バーミキュライトに富む部分に水素イオンが取り込まれる、あるいは黒雲母に富む部分で脱水素化が起こることで全体の電荷的中性が維持されているのではないかと推測される。3価の鉄は粒子の端部で多く、粒子内部で少ない傾向を示したが、バーミキュライト化した部分との相関は見られなかったため、鉄が酸化するプロセスとバーミキュライト化のプロセスはそれぞれ別個の反応過程によると考えられる。3、日本粘土学会の参考試料として新たに採用された、南アフリカ, パラボラ産の”ハイドロバイオタイト”の鉱物学的研究を行った。鉱物学的には黒雲母とバーミキュライトの1:1規則的混合層を指す鉱物名であるハイドロバイオタイトの名前が付けられているものの、実際にはいくつかの異なる混合層構造を持つ粒子が混ざった試料だと結論付けられた。4、2018年の1月末から3月初めまでの約1か月間、ポーランドの研究機関に滞在し、特に重水置換による赤外分光法を用いて試料中の水酸基及び層間水の振動状態に着目することで鉄酸化と脱水素化の関係を探るための実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は以下の3点において当初の計画以上の進展を得た。 1、マイクロX線吸収微細構造による黒雲母中の鉄価数分布の推定という実験自体は当初の計画通りだったが、約5マイクロメートルに収束できる集光系を搭載したビームライン(フォトンファクトリー BL4A 及び SPring-8 BL05)を使用することで電子線プローブマイクロ分析による元素マッピングと十分に比較することが可能なレベルの高い空間分解能で鉄価数の分布が明らかになったのは想定以上の成果だった。さらに、事前の予想に反する興味深い結果として、上述したように鉄の価数分布とバーミキュライト化した部分は異なる空間分布を持つという分析結果が得られた。これは多くの先行研究で述べられてきた、「鉄の酸化による層電荷の減少が層間イオンの置換によるバーミキュライト化を招く」という考えに疑問を投げかけるものだと考えている。 2、上記の南ア産バーミキュライトの鉱物学的研究は当初の計画には無かったものの、これまで中心的に解析を行ってきた阿武隈花崗岩中の黒雲母と化学組成の異なる黒雲母が風化によってバーミキュライト化する過程を比較・考察する上で有用だった上、混合層鉱物の粉末X線回折プロファイルのシミュレーション手法そのものに対する理解を深める良い機会となった。また、得られた研究成果は既にClay Scienceに投稿しており、改訂稿の査読を受けている段階に至っている。 3、最も想定以上の進展が得られたこととして、本年度の後半には1か月間の短期ではあったが海外の研究機関に滞在する機会に恵まれ、結果として赤外分光法を自分の研究に取り入れることができた点が挙げられる。滞在先のポーランド科学アカデミーは粘土鉱物学に関する造詣も深く、今後も互いにサンプルの供与や分析依頼を行うことが可能な状況になったことで来年度からの研究も益々進展することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績で述べたことに関連して、まず混合層構造の特徴を制御する要因について検証するために黒雲母の熱水変質に関する室内実験を行う。ここでは変質後の固相試料について粉末X線回折及び透過型電子顕微鏡による高分解能観察によって構造的特徴を調べ、電子線プローブマイクロ分析による元素マッピングによってバーミキュライト化の進行の特徴を詳細に調べる他、溶液側の分析を行うことで反応速度に関する定量的な議論も行うことを予定している。また溶液中のカリウムによるバーミキュライト化の阻害の検証や器械的に圧密を受けた場合の影響を調べられるような実験系を構築している段階である。最終的に天然試料で観察された黒雲母-バーミキュライト混合層鉱物の特徴と比較検証した上で結果をまとめ、国際誌に投稿することを予定している。次に黒雲母粒子内の鉄価数分布に関しては、現時点では定性的な議論に留まっておりXAFSスペクトルの解析から鉄価数を定量的に決定する作業を行っている途中である。こちらは近日中に論文として取りまとめてClays and Clay Mineralsに投稿する準備が整いつつある。黒雲母の鉄酸化に伴う脱水素反応に関しては、加熱処理を行った試料中の鉄価数の定量を現在メスバウアー分光法で行っている段階で、結果が出次第、赤外分光の結果と合わせて考察を行う。また、ポーランド滞在中には2八面体型のバーミキュライトについて海外の研究者と議論する機会が得られたが、2八面体型バーミキュライトは黒雲母に代表される3八面体型の2:1型層状ケイ酸塩と同様にセシウム吸着能が高く、加えて3八面体型と比べて侵食・運搬・埋没過程において保存されやすいと考えられているものの、透過型電子顕微鏡を用いた微細構造に関する研究はあまり多くないため今後も協力して研究を進めていくことを予定している。
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