研究課題/領域番号 |
17J06025
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
辻 直美 立教大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 銀河宇宙線 / 超新星残骸 / 衝撃波統計加速 / X線ガンマ線観測 |
研究実績の概要 |
銀河系内の宇宙線の多くは、超新星残骸の衝撃波面で生成される(衝撃波統計加速理論)と考えられている。粒子の運動を特徴付ける拡散係数の値は、粒子加速の理論において非常に重要なパラメータであるにも関わらず、理論的にも観測的にも詳細が分かっていない点が多い。本研究では理論の拡張計算を行い、実際に観測に適応することで、超新星残骸の拡散係数への制限を行った。 理論的なアプローチにより、非熱的X線スペクトルの測定を用いて、被加速電子スペクトルのカットオフ形状を決めることで、拡散係数を推定する方法が提唱されている。現在ではBohm型の拡散係数が広く受け入れられている一方で、詳細は分かっていない。先行研究では、Bohm拡散を仮定した推定方法について詳しく述べられているが、本研究ではその拡張計算を行い、任意の拡散型の場合について検討した。 推定に用いるX線の観測データとして、スペクトルのカットオフ形状を決める必要があるため、近年のNuSTAR衛星による約5 keV以上の硬X線スペクトルを用いた。結果として、硬X線に対応する高エネルギー側の電子の、任意の拡散型の拡散係数に制限をつけることができた。これは、超新星残骸における被加速電子の最大エネルギーの拡散係数への制限を得たことであり、銀河宇宙線の最高エネルギー粒子の加速メカニズムの解明につながると期待される。 以上の結果を、国際ワークショップや国内の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画として、NuSTAR衛星を用いた超新星残骸のX線データ解析と、HESSガンマ線望遠鏡を用いたTeVガンマ線データの解析方法の取得、という二つが大きく挙げられていた。 X線データ解析については、NuSTAR衛星を用いた超新星残骸RX J1713.7ー3946の最新のデータ解析に取り組んだ。また、データ解析に留まらず、理論の拡張計算を行い、Bohm拡散以外の場合における拡散係数の推定方法を検証した。これは、研究目標以上の成果と言える。ガンマ線解析については、実際に生データの解析を始めるには至らなかった(平成30年度に開始予定)。しかし、コロキウムや研究会等でガンマ線観測への知識を深めた。さらに、X線と同様の要領で、ガンマ線スペクトルのカットオフ形状から拡散係数を推定する方法を検証した。 以上より、総合的におおむね順調に進展している、と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、X線とガンマ線のデータ解析及び、拡散係数の推定手法の検証を行っていく。 銀河系内の若い超新星残骸のNuSTAR衛星による硬X線スペクトルを用いて、各天体の拡散係数を推定し、統一的な議論をする。必要に応じてNuSTAR衛星の観測プロポーザルを提案し、サンプルを増やす必要がある。若い銀河系内の超新星残骸の被加速粒子の拡散係数の値を統一的に理解することで、銀河宇宙線の起源の解明につながると考えられる。 平成30年(8月を予定)に、TeVガンマ線望遠鏡HESSを運用するマックスプランク研究所を訪問し、HESS望遠鏡を用いたガンマ線解析の手法を取得する予定である。ガンマ線が電子起源と仮定した際に、X線と同様にカットオフ形状から拡散係数の推定が可能であるので、ガンマ線観測から拡散係数へ制限をつけることを検証する。 以上で述べた拡散係数の推定手法は、現在では高エネルギー側のスペクトルにのみ適応できるものである。全エネルギー帯のX線スペクトルに応用するためには、低エネルギー側の解析解とスムーズに繋がるように、中間領域において数値計算をする必要がある。全エネルギー帯の解析解を導出することで、カットオフ形状と拡散係数により厳しい制限を与えることができると期待される。
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