超新星残骸(SNR)パラダイム(SNRが銀河系内宇宙線の起源であるという構想)を検証するために、観測や理論的アプローチを用いて様々な研究が行われてきた。 SNR表面の衝撃波における粒子加速は、拡散係数によって特徴付けられる。Bohm拡散では、粒子の平均自由行程はジャイロ半径のη倍で表される(η:Bohm因子と呼ばれている)。ηは粒子の加速効率を表す指標であり、ηが小さい時、粒子の平均自由行程は短く、拡散が速く起こるため加速効率が高くなる。 粒子の加速がシンクロトロン冷却で制限されるとき、放射スペクトルのカットオフエネルギーは衝撃波速度の二乗に比例し、ηに反比例する。そのため、観測からカットオフエネルギーと衝撃波速度を求めることで、ηの値を推定することがきる。 最終年度である令和元年度は、11個の比較的若い超新星残骸の観測に対して系統的な解析を行い、粒子の加速効率パラメータηに制限をつけた。Chandra衛星による軟X線のデータに加えて、NuSTAR衛星による硬X線のアーカイブデータを用いて、広域のX線スペクトルからカットオフエネルギーを得た。 既知の衝撃波速度の値と併せて、加速効率ηを推定した。そこで、SNRの年齢が経つにつれ、ηが小さくなるという傾向が観測的に初めて明らかとなった。この傾向は、乱流の生成と結びついていると解釈することができる。数百年より若いSNRでは、ηの値が最小値である1より有意に大きい。つまり、粒子の平均自由行程が長く、粒子の拡散のもととなる背景磁場が十分に励起されていないと考えられる。SNRが進化していく過程で乱流磁場が生成され、粒子の平均自由行程が短くなり、ηの値が小さくなる。以上の内容を国内外の学会で報告した。
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