研究課題/領域番号 |
17J06029
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研究機関 | 東北大学 |
特別研究員 |
横山 幸司 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 窒素含有炭素ナノ材料 / 構造欠陥導入炭素ナノ材料 / 仕事関数 / 導電率 / 酸素還元触媒活性 |
研究実績の概要 |
本研究では、窒素含有炭素ナノ材料の実験的な酸素還元触媒活性サイト特定と触媒活性発現機構解明を最終目標としている。 そこで当該年度はまず、触媒活性サイト特定の第一歩として、炭素ナノ材料に存在する構造欠陥の触媒活性発現への寄与を検証した。具体的には、脱フッ素化を経由する単層カーボンナノチューブへの窒素導入手法を拡張し、窒素源非存在下で同一の処理を施すことで、構造欠陥のみを効果的に導入した。得られた構造欠陥導入試料はある程度の酸素還元触媒活性を示すものの、窒素含有試料のそれには及ばないことを示し、窒素含有炭素ナノ触媒材料の触媒活性発現には含有窒素が重要な役割を担うことを明らかにした。 また、触媒活性発現機構の解明に関連して、単層カーボンナノチューブ試料の電子物性(キャリヤ特性、仕事関数、導電率)と触媒活性の相関を検証した。具体的には、本研究で新たに構築した熱起電力測定装置を用いたキャリヤ特性評価と、紫外光電子分光分析による仕事関数評価などを実施した。その結果、窒素含有試料は大気中でも安定したn型キャリヤ特性と低い仕事関数値を示した。これらの電子物性評価結果と触媒活性評価結果を総合し、窒素含有試料の優れた酸素還元触媒活性には、ナノチューブ骨格への窒素導入による還元性(電子供与性)の向上が密接に関与しているとの知見を得た。 一方で、現状のフッ素ガスを用いた単層カーボンナノチューブのフッ素化では、フッ素基がミクロレベルでは不均一に分布することが各種分光分析により明らかとなった。不均一に分布したフッ素基は脱フッ素化の際に、望ましくない過剰な構造欠陥導入やピリジン・ピロール型窒素種の支配的導入を引き起こす。そこで、新たなフッ素化剤として2フッ化キセノンガスを用いたフッ素化処理を検討し、フッ素ガスを用いたフッ素化と比較してミクロレベルでもフッ素基が均一に分布する傾向を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、窒素含有炭素ナノ材料の実験的な酸素還元触媒活性サイト特定と触媒活性発現機構解明を最終目標としている。当該年度では、①触媒活性サイトの実験的特定に不可欠な単層カーボンナノチューブ試料への窒素導入形態の単一導入制御に向けたフッ素基の化学的状態制御と、②触媒活性発現機構の解明に向けた窒素含有単層カーボンナノチューブ試料の基礎的電子物性評価、を予定していた。 まずフッ素基の化学的状態制御や窒素導入形態の単一導入制御に関しては、フッ素化剤を従来のフッ素ガスから2フッ化キセノンガスに変更することにより、よりミクロレベルでの均一なフッ素基導入が可能であるとの知見を得た。加えて、2フッ化キセノンガスを用いたフッ素化を経由する窒素導入処理により、厳密な窒素導入形態制御法の確立には至っていないものの、フッ素基の化学的状態によって窒素導入形態が大きく異なる傾向が得られていることから、おおむね順調に進展していると判断した。 また、得られた窒素含有単層カーボンナノチューブ試料の電子物性評価に関しても、本研究で新たに構築した熱起電力評価装置を用いて決定した大気中でのキャリヤ特性と、紫外光電子分光分析により測定した仕事関数値から、単層カーボンナノチューブ試料への窒素導入により、大気中での安定なn型キャリヤ特性の発現および仕事関数の低下という明らかな電子状態の変調が生じることをマクロレベルで確認することができた。窒素含有単層カーボンナノチューブ試料の優れた酸素還元触媒活性の起源・発現機構を解明する上で不可欠と言えるデータを得ることができたため、期待通りに研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新たなフッ素化剤として採用した2フッ化キセノンガスを用いた単層カーボンナノチューブのフッ素化を引き続き検討し、ミクロレベルでの均一なフッ素基導入を維持しながらフッ素化度合を向上できるフッ素化条件の探索を進めていく予定である。同時に、得られたフッ素化単層カーボンナノチューブ試料への窒素導入処理を進め、グラファイト型窒素を支配的に単一導入できる最適な処理条件の探索も進めていく。さらに、得られた各試料の電子物性(キャリヤ特性、仕事関数、導電率)の評価と酸素還元触媒活性評価を同時並行で実施する。特に、ピリジン・ピロール型窒素リッチの試料とグラファイト型窒素リッチの試料の間での電子物性と触媒活性の比較を行うことにより、含有窒素の種類の違いがキャリヤ特性や仕事関数などの電子物性にどのように影響し、それによって触媒活性がどのように変化するかに着目する。また、フッ素ガスを用いた場合と比較して、2フッ化キセノンガスを用いたフッ素化を経由して得られる窒素含有単層カーボンナノチューブ試料では過剰な構造欠陥導入が抑制され、導電性の低下が抑えられることが期待されるため、両者を比較することにより、試料の導電性と触媒活性の相関についても重要な知見が得られると考えている。
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