本研究では、単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube: SWCNT)をモデル材料に用い、窒素含有炭素ナノ材料の実験的な酸素還元反応(oxygen reduction reaction: ORR)触媒活性発現機構の解明を目指す。当該年度は、以下の3点の研究に取り組んだ。 まず、二フッ化キセノンガスを用いた異なる反応条件での高結晶SWCNTのフッ素化により、フッ素基の導入量・導入形態を制御した。また、得られた各フッ素化試料をアンモニアガス雰囲気やヒドラジン一水和物溶液中で加熱し脱フッ素化させ、SWCNT骨格にピリジン型・グラファイト型窒素種を制御導入した。さらに、同様の脱フッ素化処理を窒素源非存在下で行い、構造欠陥のみを選択的に導入した。 次に、上記で得られた異なる構造因子を持つ各SWCNT試料を用いて作製した触媒電極を用いて酸性電解液中でORR触媒活性を評価し、構造因子の種類と触媒活性の相関性を見出した。また、触媒電極の窒素・酸素飽和電解液中での自然電位が構造因子の種類によって異なることを見出し、これらが試料内の電子の電気化学ポテンシャル、酸素吸着特性および還元能などの電子物性を反映することを示した。さらに、電気化学的に推定されたこれらの実動作環境での電子物性がSWCNT試料のORR触媒活性と相関することを初めて実験的に明らかにし、新たな触媒活性発現機構を提唱するとともに、これを踏まえた最適構造設計指針を提案した。 最後に、脱フッ素化による窒素導入処理と高温アニール処理を融合させた、最適構造設計指針を忠実に反映する試料合成法の構築により、現状最高値に匹敵するORR触媒活性(オンセット電位: +0.65 V vs. Ag/AgCl、半波電位電流密度: -2.80 mA/cm2、および反応電子数: 4.00)を持つSWCNT試料を得た。
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