研究課題/領域番号 |
17J06089
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西口 知輝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 一分子観察 / Gタンパク質共役型受容体 / 生細胞 / 蛍光顕微鏡観察 / タンパク質間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は細胞膜上でシグナル伝達を行うGタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性化状態を、一分子レベルでの顕微鏡観察を用いて定量的に評価する系を確立することを目的とした。GPCRは活性化により細胞内に存在するGタンパク質と相互作用することが知られているため、GPCRとGタンパク質との相互作用時間の評価に焦点を当てて実験を行った。今年度の成果としては、GPCRとGタンパク質とを適切な蛍光色素により可視化し、30nmの位置精度、18msの時間分解能で細胞膜上での二つのタンパク質の運動を同時に検出する系の確立を達成した。蛍光色素によるタンパク質の改変は、GPCRの細胞内局在や活性化状態に影響を与えないことも確認された。 確立した観察手法を用いてGPCRとGタンパク質の運動を評価したところ、GPCRのリガンド存在下において、GPCR同士の複合体が形成される様子や、GPCR-Gタンパク質間相互作用時間が伸びる様子が観察された。この結果は、GPCR複合体形成状態やGPCR-Gタンパク質相互作用時間が、GPCR活性化状態の定量評価のための指標となりうることを示唆する結果である。特に、GPCR同士が複合体を形成するときに、Gタンパク質との相互作用時間が持続していることが確認されており、活性化状態が変化したGPCRのみを選択的に検出できる手法であることが示された。したがって、本研究で確立した手法は、細胞内におけるGPCRの挙動を平均化して評価する従来の活性化検出方法では得られなかった、局所的で微小な活性化状態変化をも検出する手法である。今後は異なるリガンドの存在下での応答を観察することで、GPCR活性化状態の多様性を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、平成29年度にGPCRとGタンパク質との一分子観察条件の最適化を行うことを目標に掲げた。染色色素、顕微鏡観察条件(露光時間、励起光強度、フィルターの選択)の最適化の結果、GPCRとGタンパク質とを30nm、18msの分解能で検出することができる一分子観察手法を確立することができた。この分解能は、GPCRとGタンパク質との相互作用を検出するためには十分な性能であるため、当初の計画は達成できたと評価している。 また、平成30年度の計画として、多様なリガンド存在下における一分子応答の評価を掲げていたが、リガンドの一つである作動薬存在下において、GPCRとGタンパク質との相互作用時間に有意な変化する、という結果が既に得られている。相互作用時間はGPCRごとに評価できる指標であり、時空間的にも多様な活性化状態が想定されるGPCRを評価する上で、適切な指標であると推測される。厳密に活性化状態と一分子応答に相関があることは、今後の研究において確認する必要があるが、具体的な定量評価の指標を現時点で提案できたことは成果として大きい。そのため、当初の計画以上の進展があったと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、多様なリガンド存在下における、活性化状態の多様性を評価する指標の確立を目的とした。GPCR活性化状態を評価する一分子観察手法は確立されたため、GPCRに対して異なる活性化状態を誘起する化合物を添加したときの応答を測定する。その際に、従来の研究において単純な活性化/不活性化状態の変化のみを引き起こすと考えられる化合物をコントロールとして用いることで、一分子応答が確かに既存の測定によって明らかにされている活性化状態と合致することを示す。 従来の手法では評価できない活性化状態を引き起こすリガンドとして、当初はシグナル伝達能の異なるリガンド(バイアスリガンド)を用いる予定であったが、対象としているGPCR(FPR1)ではバイアスリガンドの報告例がなく、並行して行ってきた化合物スクリーニングにおいても現時点では選抜できていない。そこで、バイアスリガンドの報告されている類縁体GPCR(FPR2)の使用や、バイアスリガンドではないが、シグナル伝達の速度が異なるリガンドを用いることを検討している。時空間的に異なるGPCR活性化状態を作り出したうえで、GPCRの活性化状態を個別に検出することで、活性化状態の伝達様式を明らかにすることを目指す。
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