研究課題/領域番号 |
17J06100
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 友彰 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | X線回折 / アルミニウム / 電荷密度 / 金属結合 |
研究実績の概要 |
(1)SPring-8のビームラインBL02B2で単体金属の粉末X線回折の測定を行った。課題を実施しているため、これに参加した。d>0.217Åの超高分解能データを測定した。 (2)測定データを用いて、世界最高の精度をもつ217本のAlの精密な構造因子の観測に成功した。Alの電荷密度を多極子展開で決定し、Alの金属結合による結合電子の分布を明らかにした。これらの実現のため、多極子解析とパターンフィッティングを用いた最新の解析手法を適用した。多極子解析で、Extended Hansen-Coppensモデルを用いて、内殻電子の変形も考慮した解析や非調和熱振動を用いた解析も試みた。 (3)2017年8月の国際結晶学連合会合IUCr2017で、Alの30Kでの粉末X線回折の測定データ、観測した構造因子、電荷密度の解析の経過を報告した。2017年11月の結晶学会でも、その後の進捗となる。Alの30Kでの観測構造因子と電荷密度の解析の現状の結果を報告した。2018 Joint Symposium on Energy Materials Science and Technologyにおいて、結晶学会の発表と同様のAlの30Kでの電荷密度の解析の結果とともに、粉末X線回折での30Kから300Kでの熱散漫散乱の大きさの議論について報告した。 (4)2017年9月と2018年2月に、デンマーク・オーフス大の材料結晶学センターで、粉末X線回折の測定データ、観測した構造因子、電荷密度の解析の結果について、Bo Iversenセンター長や関連研究者と研究打合せを行った。また材料結晶学センターの報告会に参会し、最先端の電子密度研究に関する知見を深めた。 (5)30Kの低温測定でのAlの観測構造因子と金属結合の分布について、投稿論文の原稿を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)測定データは予定通り取得できた。SPring-8のビームラインBL02B2での粉末X線回折の測定により、当初の目標に近いd>0.217Åの超高分解能データをAlの30Kで測定できた。100、200、300、400、500、600 Kでの測定に成功した。このデータを利用して構造因子の温度変化の観測や、精密な解析で不可欠な熱散漫散乱の評価が可能なことがこれまでに判明している。 (2)多極子展開解析により2%以下の信頼度因子で電子密度が求められることがこれまでの時点で判明している。Alの30Kで、217本のAlの構造因子の観測に成功した。現在、誤差の見積もりや熱散漫散乱の評価を進めている。観測構造因子と多極子モデリングを用いて、Alの電荷密度観測も進めている。Alの金属結合による希薄な結合電子の分布で、結合電子の集積や欠乏の場所を明らかにすることに成功した。さらに定量性を高めるために多極子解析とパターンフィッティングを用いた最新の解析手法やExtended Hansen-Coppensモデルによる内殻電子の変形の考慮も含めて解析を進行中である。 (3)予定通り国際結晶学連合会合IUCr2017でAlの研究経過を報告した。結晶学会、2018 Joint Symposium on Energy Materials Science and Technologyで、Alの最新の研究成果を報告した。 (4)平成30年度の計画にあるデンマーク・オーフス大材料結晶学センターでの研究打合せを前倒しで実施した。 (5)30Kの低温測定でのAlの観測構造因子と金属結合の分布について、投稿論文の原稿を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Alの電荷密度をさらに精度を高めて決定する。具体的には熱散漫散乱の補正を高度化し、定量性を高める。最終的な目標は0.005eÅ-3の精度での全空間分布の決定である。この電子密度を明らかにし、その電子密度に対して、Baderのトポロジカル解析により化学結合を定量的に評価する。Alの電荷密度でのbond critical point、ring critical point、cage critical pointの分布や、bond critical pointでのトポロジー的な性質を調べる。この際、第一原理計算で求めた電子密度分布のBader解析も併せて行い、結果を実験値と比較することで、理論で見落とされていた結合特性を解明する。 (2)SPring-8のビームラインBL02B2で、単体金属の粉末X線回折の測定を継続して行う。Alと同じfcc構造をもつRe、W、Auなどの重元素や、bcc構造のMoの測定を計画している。受け入れ研究室で実施している課題への参加により測定する。d>0.2Åを上回る超高分解能データの測定を実施する。 (3)Al以外の試料での新たな成果について、オーフス大材料結晶学センターのBo Iversenセンター長や関連研究者と議論し、成果の論文化の道筋をつける。オーフス大材料結晶学センターで過去に測定された単体金属での結果や、Extended Hansen-Coppensモデルによる内殻電子の変形についても議論する。 (4)2018年7月のSagamoreXIXで、これまでの成果をまとめた発表を行う。国内では、結晶学会で発表する。 (5)fcc、bccでの一連の単体金属の成果をまとめて論文で発表する。 (6)これまでの成果を取りまとめて博士の学位を取得する。
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