研究課題/領域番号 |
17J06179
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宮澤 裕貴 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | レーザー冷却 / ユウロピウム / 量子磁性気体 |
研究実績の概要 |
私は、超弱磁場環境下でユウロピウム原子(Eu)のボース凝縮体を生成し、sipnor dipolar BECの基底状態相の探索を行うことを目指している。今年度は、Euのボース凝縮体を生成のために必要となる下記の3工程について研究を進めた。 1.「準安定状態Euを基底状態へ戻す」ボース凝縮体を生成するためには磁気光学トラップされた準安定状態Euを基底状態へ戻す必要がある。私は準安定状態Euに対して波長609nm, 1204nmの2波長のレーザーを照射することで基底状態へ光ポンピングした。ポンピングにかかる時間と効率はそれぞれ100us, 80%であり、次に示す基底状態Euの磁気光学トラップの実験を行うには十分である。 2.「基底状態Euに対する磁気光学トラップ」基底状態へ戻されたEu原子に対して、波長687nmの冷却レーザーを3方向から対向照射し、かつ3波長のリパンピングレーザーを導入することで、基底状態の原子に対して磁気光学トラップを実現する。私は、波長687nmの冷却レーザー、及び、3波長のリパンピングレーザーを用意した。現状では、冷却レーザーと1波長のリパンピングレーザーのみを用いて実験を行っているが、110usと予想以上に短い時間で準安定状態へ緩和していることを示す結果が得られた。今後は、照射するリパンピングレーザーの数を増やし、磁気光学トラップの詳細について明らかにしていく予定である。 3.「光トラップ中での蒸発冷却」波長687nmの冷却光によって磁気光学トラップされた基底状態Eu原子を波長1.5umのレーザーによって作られた十字型光双極子トラップへ原子を移行し、蒸発冷却を行うことでボース凝縮を得る。私は、出力18W、波長1.5umのレーザーの準備と必要な光学素子の選定・購入を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、準安定状態Euを短時間、高効率で基底状態へ光ポンピングする、磁気光学トラップのリパンピングレーザーを用意する、といった準備を行ってきた。その結果、波長687nmの励起状態から準安定状態への緩和レートが予想以上に大きく、基底状態Euの磁気光学トラップを実現するにはリパンピングレーザーが必要不可欠であることが明らかになった。本結果は、Euのボース凝縮実現するための方策を決めるうえで、非常に有益な情報である。 残念ながら当初の目標であったEuのボース凝縮体の実現は達成できなかったが、磁気光学トラップ、及び、光トラップ中での蒸発冷却の準備は着実に進んでおり、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通して、波長687nmの光学遷移の励起状態から準安定状態への緩和レートが非常に大きいことが明らかとなった。リパンピングレーザーを照射することで磁気光学トラップを実現できると予想されるが、当リパンピグ遷移は準安定状態へ緩和した原子のうち99.9%しか基底状態へ戻すことができないため、磁気光学トラップの寿命はリパンピングした場合でも、100ms程度にとどまる。この時間は、磁気光学トラップから光トラップへの移行にかかる時間と同程度であるため、十分な数の基底状態Eu原子を光トラップへ導入できない可能性が高い。 そのため、基底状態Euの磁気光学トラップを利用しないで光トラップに基底状態Eu原子を用意する方法を計画している。準安定状態Euを基底状態へ戻す前に光トラップへ導入し、その後2波長のレーザーを照射して光ポンピングによって基底状態へ戻す方法である。この方法を使うことで、光トラップされた基底状態Euを用意し、蒸発冷却を行うことでボース凝縮体を実現することを目指す。
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