脊椎動物では初期発生過程や後期発生過程は系統特異的に多様化しているが、発生中期はなぜか高い類似性を示しており、発生中期の変更し難さが成体のボディプランの保存性に寄与する可能性も注目されている。 脊椎動物の発生中期(咽頭胚期)が進化的に保存される理由として、本研究の仮説では「咽頭胚期ではそもそも発生システムが頑健であり、個体レベル・種内小進化・大進化を通して表現型に多様性が生じづらくなっている」とした。 今年度は昨年までに得られたメダカ近交系・野生集団のトランスクリプトームデータを解析し、発生段階レベル・個々の遺伝子レベルで仮説の検証を行った。 結果として、仮説を支持するデータが得られた。加えて公開データを用いて、脊椎動物の異なる系統(魚類、鳥類、哺乳類)との比較により、当初想定した小進化スケールを超え、大進化スケールまで通して仮説が成立している示唆が得られた。 さらにその背景のメカニズムを調べるために、基礎データとしてメダカ成魚由来の組織別発現データ(25組織、各4 replicates)を取得した。これと、前年取得したゲノムシーケンスデータ、公開されているopen chromatin regionのデータを合わせ、遺伝子発現の個体間差・小進化における保存性と相関が見られる発現制御上の特性を探索した。結果、先行研究で提案されていた遺伝子の多面発現性との関連が見出された。一方、同様に頑健な発現制御との関連が様々な生物で見出されていたcis制御上の特性は、今回の問題においては要因とはならないことが示唆されている。 研究期間中に得られた結果は、変異の出現・継承を中心に展開されてきた従来の形態進化の説明に、発生システム元来の頑健性も形態進化に影響するという新たな視点を加えるものである。
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