研究課題/領域番号 |
17J06241
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿部 紀恵 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 実質的価値 / 調和 / 普遍的義務 / 環境 / 下からの秩序形成 / 手続的環境権 / 科学的リスク評価 |
研究実績の概要 |
本研究は、グローバル規模での実質的価値の基準の調和が、国際法の立法・解釈・適用の法現象において達成されるメカニズムを解明するため、非国際環境法レジームによる国家の環境保全義務の形成現象を分析することで、環境という実質的価値を保全する調和的かつ普遍的な義務が形成されるメカニズムを実証的に解明することを目的としている。この目的を達成するため、平成29年度は、先行研究の分析(総論)と、実践的論点の把握・理解(各論)の両方について研究を遂行した。 まず、総論として、加盟国の交渉により締結される多数国間環境条約の「上からの法秩序形成」に対置され、国家の環境保全政策の意思決定の在り方を規律することで「下からの法秩序形成」を促進する新しいタイプの環境条約として、オーフス条約とエスポー条約に着目した。その上で、これらの条約の「憲法的(constitutional)」構造という特徴に鑑み、その新規性を説く学説を検討した。この間、国家の環境保全を義務付ける一般国際法とその特徴について、修士課程より継続して検討を行っている。次に、各論として、国際人権法における手続的環境権の内容の変遷と、貿易協定における科学的リスク評価の要件について、それぞれ、欧州人権裁判所の判例とWTOのSPS協定の解釈・適用をめぐる小委員会および上級委員会の報告書を用いて、近年の傾向を分析した。 これらの検討を通じて、非国際環境法レジームが加盟国に課す、いわば間接的な環境保全義務は、手続的環境権の保全による意思決定プロセスの改善と、普遍的基準としての科学への厳格な依拠から成る、という仮説が浮かびありつつある。 今後は、これら2つの傾向を包括する枠組みを模索するべく、総論のさらなる拡充を中心に研究を進める予定である。 以上の研究の成果はそれぞれ、研究会および国際ワークショップにて報告し、有益な示唆を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とりわけ各論について、研究成果を発表する多くの機会に恵まれたこともあり、一定の具体的検討を行うことができた。また、総論に該当する先行研究の分析がいまだ不十分であるが、各論の分析を進めて継続的な思考整理を行ったことにより、総論に繋がる一般的理論的知見について示唆を得ることで、次年度で解決するべき課題をより明確にすることができた。 ただし、異なるレジームを横断的に検討するという本研究の特徴から、総論の拡充において検討するべき先行研究の射程をさらに広げる必要性が生じた。次年度は、個別の実践的論点を包括的に俯瞰するための理論的視野を広げるとともに、本研究が国際法研究全体というより大きな文脈においてどのように位置付けられるか、という課題により意識的に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度手薄になりがちであった総論についてより積極的に取り組む予定である。具体的には、現段階での仮説における2つの傾向を結びつける枠組みとして、持続可能な発展の概念の徹底した分析を行う。当該概念は5月に開催予定の世界法学会の共通テーマとして設定されているため、報告者との質疑応答を通じて、自らの研究に関する重要な知見を得る機会としてこれを活用する予定である。また、本年度行った国家の環境保全を義務付ける一般国際法の分析と比較するために、国際法の断片化の収斂、および国際法の立憲化に関する学説をも検討する。国際公益とされる環境を保全するのに有益とされるこれらの理論的枠組みには、総論をまとめる最終的な作業として、本研究との位置関係を探りつつ、批判的検討を加える予定である。 また、さらなる各論として、国際投資仲裁の仲裁廷判断のうち、環境保全が関わるものを検討する。国際投資仲裁と環境保全の交差については既に複数の先行研究があるため、本研究全体に共通する目的との整合性を念頭に置きつつ、取り組むべき実践的論点を明確にする作業から着手する予定である。
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