研究実績の概要 |
動物の複雑な体構造は,上皮組織の座屈や折りたたみ・伸長といった単純な変形が組み合わされることにより形成される.ドーム形成は上皮組織の折りたたみのひとつであるが,ドーム形成を引き起こす要因はほとんど分かっていない.先行研究により浸透圧勾配が要因として提唱されているものの,その直接的証拠は報告されていない.そこで我々は浸透圧勾配によってドーム形成が誘引されるかとその仕組みとをインビトロで調べた. 本研究では,液体培養基質であるマトリゲルをゲニピンという架橋剤で処理して使用した.このゲニピン処理マトリゲル(以下,GPM)上の上皮細胞シートへ浸透圧勾配を与えると,細胞シートは内部がGPMで満たされたドームへと変形した. 次に,浸透圧勾配がGPM上でドーム形成を起こす仕組みを調べた.3Dライブイメージングの結果,ドーム形成時にはGPMが膨潤していることがわかった.ゲルは内部の溶液の塩濃度によって膨潤度が変わる.また,細胞の水チャネル・アクアポリン(AQP)は水を高張側に輸送する.そのため,ドーム形成時もAQPによって水がGPMへと輸送されてGPM中の塩濃度が下がり、膨潤が起こっている可能性がある.この可能性を検証するため,AQP阻害剤を投与した.その結果,膨潤が抑制されドームもできなかった. さらに我々は,ドーム構造の力学的機序を調べた.ミオシンはリン酸化により細胞内張力を発生させる.このミオシンの阻害剤(ブレビスタチン, Y27632)を投与したところ,ドーム形成が阻害された.現在は,細胞内張力の局在を調べるため,リン酸化ミオシンの免疫蛍光染色に取り組んでいる. これらの事実は,浸透圧勾配によってGPM上の細胞シートにドーム形成が誘引されることを示した重要な結果である.今後は,細胞内張力の局在明らかにし,来年度中に成果を論文にまとめる予定である.
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